お客さんから店長に!? 〈四川家庭料理 楊 八戸〉は、“楊愛”が生み出す本格四川料理店。【廿六日町】

「麻辣」のシンプルな味付けのその先にある複雑な旨味が特徴の四川料理。ピリリと痺れる辛さに驚きはしますが、なぜだか箸が止まらない、〈四川家庭料理 楊 八戸〉の味。その美味しさの秘密は、店長である沖田美幸さんの“楊愛”にありました。

writer
小田桐咲-amy-odagiri

1996年生まれ。直感と勢いで生きる牡羊座。青森県八戸市出身。5歳から武術太極拳(カンフー)を嗜んでおり、2019年の全日本チャンピオン。2026年のあおもり国スポでの優勝を目指し、20208月にUターン。『海猫ふれんず』として地元の情報も発信中。育ててくれた街や人に感謝して、その恩を返していけるように活動していきたいです。
Instagram|『海猫ふれんず』はこちら

 

中華料理。それは中国で生まれた料理たち。

しかし、中国には4000年もの歴史があります。筆者が嗜んでいる中国武術にも数え切れないほどの種類や流派がありますが、中華料理も生まれた場所によって、さまざまな特徴があるのです。
そんな奥深い中華料理ですが、中華料理に関することわざで、こんな言葉があります。

“​​四川人不怕辣
湖南人辣不怕 
贵州人怕不辣” 

意味は、“四川人は辛さを恐れず、湖南人は辣さで威すことはできず、貴州人は辛くないのを恐れる”。つまり、中国西南部の四川省、湖南省、貴州省の3省はの人たちはどんだけ辛いのが好きなんだ! という意味のジョークなのだそう。

数ある中華料理の中でも、“辛いもの認定”されてしまう四川料理を、本格的に味わえる店が八戸にあることを、皆さんはご存知でしょうか?

 

恐れるべからず! 本格四川料理の味わい深い辛さ!

ハナミズキ通りの廿六日町交差点付近のビル1階に、堂々と構える〈四川家庭料理 楊 八戸〉。
2021年3月30日に類家から移転した店内は、木目と間接照明を生かした落ち着いた雰囲気。
客席から近い厨房はガラス張りになっており、調理されている料理の音や匂いが、筆者の空腹を加速させていきます。

注文を済ませ、最初に出てきたのはこちら。

「トマトと卵炒め定食」1,180円。
日本ではあまり馴染みがなく、一般的な中華料理店でもあまり見られない料理ですが、中国では家庭料理の一つ。現地日本人にも人気の高い料理なのです。

色味が赤いので一見辛そうに見えますが、一口食べてみると、トマトと卵の優しさが口の中に広がっていきます。
そしてトマトと卵から出るジューシーなおつゆが、これまた白米に合う!
セットでついてくる白米の上に乗っけて食べるのがおすすめです。

独特な食レポが話題の『はちまち』ライターの馬場さん風にいうと、ヤンキーが雨の中捨てられた子犬を拾っていた場面に遭遇した気分。お前、こんなに優しい味(やつ)だったんか……! という感動の一瞬でした。

 (馬場さんの記事はこちら!『濃厚最高!燃えよ〈ドラゴンラーメン〉! 煮干だし“セメント系”ラーメンに漢(おとこ)の優しさを見た。【内丸】』

次はこちら。「焼き餃子」590円。
見てください、皿を覆い尽くすようなこの羽。餃子のこんな姿、見たことあります?
ずっと見ていられるほど美しい姿ですが、これから食べますので、泣く泣く箸を入れていきます。

サクゥ……と箸を入れるたびに響く、羽の音を伝えられないのがもどかしい……!

ぎゅうぎゅうの餃子に大きな羽がくっついてるのが愛しい。飛んでいけそう。

皮から手作りだという餃子。皮はもちもちで、具はぎっしり詰まっています。
ニンニクは使っていないので、お子さんはもちろん、ランチで食べても大丈夫。

お次はこちら。満を辞して登場! 人気ナンバーワン、「汁なし坦々麺セット」1,200円。

まず感じていただきたいのが、この匂い!

日常生活ではあまり感じることのない、山椒の香りがなんだか新鮮です。
真っ白な麺に、赤いソースを絡ませて……いただきます。

目が覚めるほどの衝撃! か、辛い!
辛いのだけれど、箸が進んでしまう! なんだこれ!?

唐辛子的な辛さだけではなく、ピリリ、と舌先が痺れるような味わいが、坦々麺の辛さに奥行きを出している。そんな気分です!

筆者、坦々麺がメニューにあるとよく注文してしまうのですが、私の知っている坦々麺と一味違う。ただ辛いだけではない、坦々麺の裏の顔を覗いてしまった気持ちです(?)。

最後はこちら! 「胡麻揚げ団子」550円。
中華のデザートといえば、杏仁豆腐やマンゴープリンもありますが、おまんじゅう系も見逃せないところですよね。

楊の胡麻団子のすごいところは、その中身。ぱかっと割ってみると、中にはごまだれが!

ごま餡ではなく、ごまだれが入っているのが楊流です。本格的……!
外側をもちもちと味わっていると、口の中にスゥーと広がる胡麻の風味。
永遠に味わっていたい美味しさです。一生食べていられます。

 

“麻=痺れ”ד辣=辛さ”が生み出す雷撃にも似た美味! 本格四川料理について知る!

楊のベースは四川料理。四川料理というと、辛いイメージがあると思いますが、実はそれだけではないのです。

四川料理の基本は、「麻辣」。

こんなに可愛い顔していますが、油断できません。新たな味覚を開拓させられます。

日本人の一般的な味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、辛味の5つですが、 “麻辣”の“辣”はまさしく辛味の味覚。どちらかというと“痛い”という感覚ですね。
対して“麻”は、この5つには含まれない6つ目の味覚“痺れ”のことなのです。

そしてこの“麻”を生み出しているのが、山椒です。
一口食べた瞬間、はっと目が覚めるような衝撃を味わうことになります。

また、山椒を口にした後に水を飲むと、飲んだ水を「しょっぱい」と感じる人もいれば、「酸っぱい」と感じる人も。中には「甘い」と感じる人もいるのだそう。
人それぞれ感じる味覚が変わるのが、山椒の面白いところ。自分の中の味覚を新しく開拓することができます。

つまり、山椒の痺れと唐辛子的な辛さがセットになっているのが四川料理の基本なのです。
唐辛子的な辛さだけでは味に厚みが出ず、山椒のピリピリした感覚だけでも物足りない。
麻と辣の2つで1つ、それが四川料理。

ただ辛いだけではない。違う種類の辛さが組み合わさり、強烈な辛味とその向こう側にある複雑なようでシンプルな旨味が、四川料理の最大の魅力です。

楊の坦々麺は裏の顔ではなく真の姿だったのです。

都内にある楊系列店では、四川料理をベースにして、さまざまな味付けをミックスさせていますが、八戸店では四川料理に特化した味付けとなっています。

また、今回注文したトマトと卵炒めは、中国の一般的な家庭料理。
いわゆる“町の中華料理店”ではあまり見かけませんが、​​楊のメニューに並んでいるのは、日本でいう卵焼きや味噌汁といった類の四川の家庭料理を楽しんでもらいたい、そんな思いがこめられているからなのです。

美味しい中華料理屋さんは市内にたくさんあるけれど、四川料理の「麻辣」の味に特化した中華料理店は市内でも珍しいはず。

韓国料理のような「甘辛さ」ではなく、痺れと辛さが生み出す麻辣の一撃を体験してみては?

 

お客さんから系列店の店長へ。本店スタッフと店長の熱い絆が繋いだ八戸店。

かなりの本格派中華料理店である〈四川家庭料理 ​​楊 八戸〉。本店である〈中国家庭料理 楊〉は東京・池袋にあるのですが、なぜ八戸に系列店があるのでしょうか?
店長の沖田美幸(おきた みゆき)さんにお話を伺ってみました。

店長の沖田美幸さん。

「東京にいるときに本店に通っていて、雑談しながら餃子の包み方などを教わっていたんです」

“通っていて”?
……本店に勤められていたということなのでしょうか?

「いえ、お客さんとして通っていました」

なんと沖田さん、お客さんとして楊本店に通うなかで、お店の人と仲良くなったことがきっかけとなり、八戸で楊をオープンしたのです!

当初は、スタッフの方と雑談をしていただけだったそうですが、足繁く通っているうちに、お店のお手伝いをすることに。そのなかで、本店スタッフの方から、「もし八戸に帰るなら、八戸でも楊を開いてほしい」と思いを託されていたのです。

数年後、八戸にUターンした沖田さん。生活も落ち着き、仕事探しをはじめようとしたときに、思い切って楊のオープンを決意。その後、本店を行ったり来たり、時にはリモートで教わりながら、本店の味を身につけていきました。

調理中の沖田さん。手際良く中華鍋を振る姿がかっこいい。

そして迎えた八戸店のオープン。本店の皆さんは大いに喜ばれたそう。
お客さん時代から続く本店の皆さんと、沖田さんの絆が繋いだ願いが叶った瞬間でした。

さらに今年の3月に廿六日町へリニューアルオープン。本店よりも大きく、おしゃれな内装に、本店の皆さんも驚いていたそうです。現在は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、実際に八戸に来ることは叶いませんが、落ち着いたらすぐにでも来てもらいたいですね!

 

店長が広めたい “楊の味”、中華料理の可能性。

「コロナ禍で、お客さんが飲食店に求めるものが幅広くなってきた気がします」と沖田さんは語ります。

お客さんと目線を合わせながら、多くの要望に応えられるような、柔軟性のあるお店づくりを目指していきたいと意気込む沖田さん。

現在は店内の飲食だけではなく、テイクアウトやお弁当にも力を入れています。
大口の会議などの注文にもぜひご利用ください!

7月から中華風の蒸しパンサンド割包(クワパオ)のテイクアウトがスタート! 割包を片手に中心街散歩でもしちゃおうかしら。駐車場の割引券もあります。

奥にはお座敷の部屋も。

さらに、今後は県外にもお店を出していきたいと目を光らせる沖田さん。どこか出したい地域はありますか、と尋ねると、「盛岡です」と答えてくれました。
焼肉や冷麺など韓国料理的な辛さを持つ料理は浸透している盛岡ですが、まだ本格的な中華料理店はあまりないのだそう。

中華料理のお酒といえば紹興酒。樽のものと瓶のものでは少し味が違うのだとか!

また、今回はランチでお邪魔しましたが、楊ではもちろんディナーも楽しめます。

「中華料理でお酒が飲める、ということも広げていきたいです」

中華といえば、ビールや紹興酒が王道ですが、沖田さんのおすすめはワイン!
辛さや痺れを持つ中華料理と、甘みや渋みを持つワインとが組み合わさることで、お互い持っていない味わいが補い合い、色んな味覚が体験できるのだとか。
一般的な中華料理店には置いてないワインも、楊では楽しめます。

沖田さんが愛する楊の味。それは日本人には少し馴染みのない新しい味わい。
辛さの先のピリリと痺れる旨味が、あなたの味覚を新境地へと誘います。

四川人不怕辣、ならぬ、八戸人不怕辣へ。
“楊愛”たっぷりの本格四川料理を、皆さんもぜひご賞味あれ!

公開日

まちのお店を知る

最近見たページ