顔を楽しむ! 『tupera tuperaのかおてん.』でLet’s play!
〈八戸市美術館〉では、2024年7月6日(土)〜9月1日(日)の期間中、『tupera tupera のかおてん.』が開催されています。「かお」をテーマに掲げた本展は、見て、探して、貼って、体験して楽しむ企画展。ドキドキ、ワクワク、ニヤニヤが止まらない『かおてん.』を見たあとのあなたは、ありふれた日常のワンシーンがすべて顔に見えてしまうかも!
昨年開館した〈八戸市美術館〉では、2022年3月19日から新たな企画展示『持続するモノガタリ-語る・繋がる・育む 八戸市美術館コレクションから』がスタートしています。約3000点あるコレクションから厳選された作品は、一体どんな“モノガタリ”を私たちに伝えようとしているのでしょうか。
昨年11月に開館し、開館記念『ギフト、ギフト、』から始まった〈八戸市美術館〉。同館の新たな企画展示が、2022年3月19日からスタートしています。
その名も、『持続するモノガタリ-語る・繋がる・育む 八戸市美術館コレクションから』。
本展では、約3,000点ある〈八戸市美術館〉のコレクションから厳選された作品が展示されています。前期・後期で作品の入れ替えを行い、展示されている作品は全期間合わせておよそ139点。
レッドカーペットに導かれ、今回の展示室であるホワイトキューブへと、いざ入室!
本展は全部で3章の構成になっています。
第1章は『歴史をモノガタル』。
ここでは、〈八戸市美術館〉のコレクションの成り立ちについて触れています。
八戸市美術館を語るうえで外せないのが、〈八戸市博物館〉の存在です。
実は、〈八戸市美術館〉はもともと、〈八戸市博物館〉の分館として設置されました。第1章の冒頭では、現在の〈八戸市博物館〉や〈八戸市埋蔵文化財センター是川縄文館〉の前身となる〈是川考古館〉や〈八戸市歴史民俗資料館〉のコレクションなどを含め展示されています。
《唐草南部鶴紋蒔絵御歯黒箱》八戸市博物館蔵(手前)。南部家の家紋が施されている漆工芸品は、博物館にもあったような……⁉︎ 美術館の後に博物館にも行きたくなります。
宇山博明の《是川作品群》。〈八戸市美術館〉最初のコレクションのひとつです。宇山さんは、以前はちまちでも紹介した〈民芸品ののや〉と交流のあった方。ついに“本物を見る”ことができました。
旧〈八戸市美術館〉が開館した当時の新聞記事も。「教育機能を持ったギャラリー」「ハコ、モノ、ヒト…3拍子」といった文言が見出しとなるなど、今も昔も変わらずに目指している姿があるようです。
寄贈された着物の作品も展示されています。よく見ると、小島悳次郎の《型絵染芥子地雀文着物》(手前オレンジの着物)にはスズメが、《白縮緬地異国文型絵染帯》(真ん中白の帯)にはヒツジがいます。可愛らしい模様です。
開館当初は379点しかなかった〈八戸市美術館〉の収蔵作品ですが、現在では約3,000点にまで増えています。寄贈や購入によって収蔵されましたが、そのほとんどが八戸にゆかりあるモノ。
これは、〈八戸市美術館〉の収集方針で最も大切にしている点であり、新しくなった今も変わりません。そういった意味では、八戸が郷土だからこそ収集できるコレクションを持つ、世界にひとつしかない美術館なのかもしれませんね。
第2章は『土地をモノガタル』。
第2章は、八戸のまちや自然、暮らしや文化をテーマとしています。
画家である樋口猛彦のスケッチ作品からはじまり、「まち」「自然」「海」「馬」「民俗」の5つをメインに展開され、市民にとっては見覚えのある風景や、なじみ深い場面を取り扱った作品が並んでいます。
「確かにこれは、八戸だ」とうなずいてしまう作品ばかりです。
樋口猛彦の《長根スケートリンクにて》。多くの人でぎゅうぎゅうになりながらも、スケートを楽しむ市民の様子が描かれています。小さい頃、家族でスケートに行った冬休みを思い出しました。
ガラス作家である石橋忠三郎の《浸食》。八戸が故郷である石橋さんが、海岸風景に触発されて制作した作品です。砂浜の様子や、大須賀海岸の岩場に繰り返し打つ波のイメージを、ガラス表現に重ね合わせています。作品上部には小さな家々があり、八戸の海岸付近にぽつりぽつりと家が建っている風景が思い起こされます。
八戸市立鮫中学校版画グループによる《海の物語》。当時の鮫中学生たちが、漁業に関わっている人たちから聞き集めた物語を元に制作した作品群。海との暮らしの豊かさだけではなく、シビアとも感じられるほどの恐ろしさや厳しさをも表現した版画作品は迫力満点です。
久保田政子の《馬曼荼羅》。古くから馬産地であった南部地方において、馬は労働の相棒でした。騎馬打毬が伝統競技として受け継がれているなど、八戸は馬と縁深い土地なのです。ちなみに、久保田さんは50年ほど前に、馬を1万頭描くと誓っていたそうです。その誓いは果たされたのでしょうか。展示室にいる案内員さんに聞いてみるとわかるかも……。
他にも、種差海岸や鮫の港、八戸でとれる魚やえんぶり・鮫神楽などを題材にした作品が多く並んでいます。
生まれたときから当たり前にあるものや、見慣れている景色は、住んでいる私たちにとって、魅力的だと感じる機会は多くありません。
しかしながら、その当たり前のものが芸術作品として切り取られることで、いつもとは違う視点でふるさとを見直すことができるのかもしれません。
そして、最後の章である第3章は、『交流をモノガタル』。
実は、八戸では多くの作家たちが芸術団体を基盤に活動をしていたといいます。第3章では、作品だけではなく、八戸で活動していた芸術団体についても紹介しています。
明治から昭和にかけて活動していた美術団体〈野の花会〉の会員お手製会報誌『野の花』。
洋画家・福勢喜一の《初秋の奥入瀬》。戦前の八戸美術界を牽引した〈躍陽社〉を結成したひとり。会員の年齢も10〜20代と若く、女性も多く在籍している勢いのある会でした。その後の洋画家たちを育てたことでも知られています。
渡辺貞一の《東方の泉》(左)と名久井由蔵の《花見の宴》(右)。同い年で学舎も同じだったふたりは、お互いを意識せずにはいられないライバル関係だったのだとか。
また、今回展示されている書の作品の作家は、現存している書道団体の創設者でもあります。
紹介されている臨泉会・八戸臨泉会と黒潮書道会の2団体は、〈八戸市美術館〉の貸館制度を利用して書道展を開催するなど、現在でも積極的に活動を行っています。
臨泉会・八戸臨泉会の創設者である佐々木泰南の《雪》。佐々木泰南さんの娘である原田圭泉さんは、「書は人なり」の姿勢を受け継ぎ、活動を続けています。
黒潮書道会の創設者である和井田要の《飛》。これはキャンバスに油性塗料で書かれており、自由な材料や手法で書かれた個性的な作品が特徴です。
最後に展示されているのは、中学生が生み出した教育版画。〈八戸市美術館〉では、1950〜70年代の教育版画を約540点収蔵しています。
《虹の上をとぶ船総集編Ⅰ》の《大鳥に乗って星空を飛ぶ子ども》(手前)。
〈八戸市美術館〉に収蔵されている教育版画作品は、教師の坂本小九郎が八戸市内の中学校で指導した版画です。今回展示されているのは、八戸市立湊中学校養護学級の生徒が共同で制作した作品《虹の上をとぶ船総集編Ⅰ》《虹の上をとぶ船総集編Ⅱ》です。それぞれ4作品ずつで構成され、生徒たちが絵を持ち寄って話し合い、物語をつくり、共同で制作にあたりました。
八戸市立鮫中学校の生徒が制作した《海の物語》もそうですが、教育版画作品は、有名な版画家が作ったものではありません。その時代を生きていた普通の生徒たちが、協力してつくり上げた作品です。
しかし、生徒同士が対話し、受け入れ、交流を大切にしてひとつの芸術作品をつくり上げた八戸美術史において外せない歴史が残っています。
こちらで展示は終わりになりますが、最後に佐藤館長からのメッセージ動画も流れています。ぜひそちらもご覧くださいね。
ところで、本展のタイトルにも含まれている“モノガタリ”はなぜカタカナなのでしょうか。「物語」と何が違うのでしょう。
「本展の“モノガタリ”には2つの意味があります」と語るのは、八戸市美術館の学芸員、篠原英里さん。
ひとつめは、作品(モノ)が私たちに語り(カタリ)かける、「モノガタリ」。
物語と聞くと、起承転結の筋書きをもとにお話が完結する「ストーリー」という意味が広く知られていますが、本展では、個人的な思いや記憶を語り伝えるという意味の「ナラティブ」的な要素が強く含まれています。
美術作品は、ただのモノではありません。
そこには色や形、質感といった作品の特徴だけではなく、制作時期、制作者、持ち主の移り変わりなど、多くの情報を含んでいます。
作品自体が、いろんなことを私たちに伝えようとしてくれているのです。
たくさんの「モノガタリカード」が飾られています。見た人の千差万別の感想やエピソードを読むことができるのも、“モノガタリ”のひとつですね。もちろんあなたの“モノガタリ”も書くことができますよ。
もうひとつは、私たちが作品(モノ)について、みんなで語り(カタリ)合う、「モノガタリ」。
語られないものは、すぐに忘れ去られてしまいます。伝言ゲームのように、たくさんの人が繰り返し語り繋いでいくことで、後世へと持続させていくことができるのです。
現在〈八戸市美術館〉に収蔵されている作品の多くが、明治〜昭和に活躍した作家のもの。残念なことに、ここ数年で逝去された作家やその親族の方たちがいらっしゃるのだそう。
だからこそ、今を生きる私たちの“モノガタリ”が必要なのです。
人々の記憶に残ることで、作品は持続されます。むしろ、時代に合わせて作品が育まれていくようです。
展示室の出口側には、篠原さんと語れるコーナーが設けられています。不在時でも、「モノガタリカード」を書いておくことで、あとから回答をもらうことができます。
作品をみた感想や思い出したエピソードなどは、ぜひ家族や友人に“モノガタリ”してみてください。私たちで、この“モノガタリ”を持続させていけたなら嬉しいですね。
今回の企画展にはそんな2つの意味が込められていたのです。
さらに、このふたつの“モノガタリ”を実現するために、本展にはさまざまな仕掛けが施されていました。
仕掛けのひとつとして、展示室では、本展に関係のある人物たちが“モノガタリ”をするインタビュー映像を流しています。
映像では作家や関係者12組14名から、当時のリアルなエピソードや強い思いが語られています。
通常、美術館ではあくまでも客観的な立場に徹し、作家の意図や制作背景などを語ることはないのだそう。しかしながら、これもひとつの“モノガタリ”。関係者から語られるメッセージには強い力があり、実感を持って作品と向き合うことができます。
美術館内の「会議室1」では、松村外次郎の《蓬瀬》が展示されています。八戸市の奉仕団体〈一葉会〉が1988年に八戸市美術館へ寄贈した彫刻作品です。当時は屋外に設置されていたため雨跡が残っており、30年もの間美術館を見守ってくれていた時間の重みが感じられるようです。
ここで“モノガタリ”ポイント。なんとこの場所、実は、旧美術館時代に設置されていた場所と同じ場所なんです!
手をあげている特徴的なポーズもあいまって、一緒に写真を撮ってSNSにあげたくなっちゃいますね。 #蓬瀬 #逢瀬じゃないよ #蓬だよ
他にも、作品の横には作品のエピソードが記載されたキャプションが細々と展示されています。作品や記録だけでは知られていない、ちょっとくすっと笑ってしまうようなエピソードも。作家たちのなんとチャーミングなこと!
個人的には、作家とはこんなにも相撲を取り合うものなのかと感心しました(笑)。
作品の横に何もつけない昨今の美術館の流れと逆行するようですが、これも“モノガタリ”の仕掛けのひとつ。心に残ったエピソードをぜひ周りの人に“モノガタリ”してみてくださいね。
ちなみに、誰でも無料で利用できるジャイアントルームでは、本展に合わせたグッズを販売中。展示されている作品のポストカードや、縄文鉄偶、手ぬぐいなど、お土産にして持ち帰ったら、あなたの“モノガタリ”が加速しそうなアイテムが盛りだくさん!
〈八戸市美術館〉の建物は、昨年新しく建てられましたが、同館に収蔵されているコレクションは、すぐにできたものではありません。昔と変わらず、ずっとあるモノです。
過去の歴史が積み重なって、必然的に今があるということを、私たちは再認識しなければならないのかもしれません。そうして忘れてはならないものを受け繋ぎ、未来へと持続させていくのです。
八戸の未来の“モノガタリ”のひとりとして。
Photo:なつめ
〈八戸市美術館〉では、2024年7月6日(土)〜9月1日(日)の期間中、『tupera tupera のかおてん.』が開催されています。「かお」をテーマに掲げた本展は、見て、探して、貼って、体験して楽しむ企画展。ドキドキ、ワクワク、ニヤニヤが止まらない『かおてん.』を見たあとのあなたは、ありふれた日常のワンシーンがすべて顔に見えてしまうかも!
2024年4月20日(土)〜2024年6月24日(月)まで、〈八戸市美術館〉では二度目のコレクション展となる『展示室の冒険』を開催中。本展では、前回のコレクション展のときには展示されなかった作品たちが並んでいるだけではなく、前回とまったく異なるコンセプトで作品を楽しむことができます。あなたも、〈八戸市美術館〉の冒険にでかけてみませんか?
2024年1月20日(土)から3月25日(月)までの期間中、〈八戸市美術館〉で開催されている『デジタルとアナログで創造する 藤井フミヤ展 Fumiyart2024』(以下、『藤井フミヤ展』)にやってきました。アーティストとしても、画家としても活躍している藤井フミヤ氏のアートが楽しめる本展は、なんと北海道・東北地方初上陸! 130点の作品と新作3点が公開されているのだそう。堪能してくるぞ〜〜!