112年の歴史を誇る老舗〈山口源兵衛商店〉。お茶の専門店に聞く、茶道の魅力とは?【十三日町】
創業112年を誇る老舗〈山口源兵衛商店〉。創業当初はお茶屋さんではなく、時代に合わせた商品を販売していました。現在はお茶・茶道具の店として市民から愛されています。四代目である義三さんに、茶道の魅力について聞いてみました。
創業112年を誇る老舗〈山口源兵衛商店〉。創業当初はお茶屋さんではなく、時代に合わせた商品を販売していました。現在はお茶・茶道具の店として市民から愛されています。四代目である義三さんに、茶道の魅力について聞いてみました。
十三日町交差点と十六日町交差点を結ぶ通り、櫓横丁の〈居酒屋弁慶 旬・十三日町店〉の隣に店をかまえるのは〈山口源兵衛商店〉です。
会社として登記したのは1948(昭和23)年ですが、創業は1911(明治44)年だそう。112年の歴史を誇る老舗店です。
創業当時は、鶏卵がメインの商売をされていたようです。ほかにも、新聞やスポーツ用品を扱うこともあったとか。また、戦時中、お茶は贅沢品とされていたため、茶葉の生産、販売などが制限されていたこともあり、その間は雑貨や洋服を扱っていました。時代に合わせて、多岐にわたる商品を取り扱ってきたのですね。
お茶を扱うようになったのは三代目からで、現在は20〜30種類の茶葉や抹茶、そして茶道具を取り揃えています。茶葉は九州、静岡、宇治など、茶葉の産地として有名なところから仕入れているそうです。
現在店主をつとめている4代目の山口義三(よしぞう)さん。ちなみに店名は、義三さんの父である山口源兵衛さんがつけた店名をそのまま使用しているとのころ。古風でかっこいい店名なので創業者の名前かと思っていたんですが、そうじゃなかったんだ……(笑)。
義三さんに、お茶の魅力について聞いてみると、「おもてなしだね」とずばり。
茶道とは、ただお茶を楽しむための場ではありません。茶道とは、日本の伝統的な様式や作法に則って、亭主がお客様にお茶を点てて振舞い、お客様は亭主のおもてなしを受けてお茶をいただくことをいいます。
もてなす側も、もてなされる側も、互いを尊重するような精神的な交流を重んじており、そのための茶室、茶道具、庭、料理や手前作法などの幅広い知識や感性が求められるのだそう。まさに、日本古来の総合芸術のひとつ。
また、禅宗という仏教のひとつとも関わり合いが深く、「今をどう生きるか」という教えも茶道の精神の随所にあらわれているそう。「それだけ奥が深いのも、茶道の魅力のひとつ」と語る義三さん。確かに奥が深すぎる。
兜の形をした香合。
茶道が日本に入ってきたとされているのは、鎌倉時代。栄西禅師(えいさいぜんじ)が中国から持ち帰り、日本で広めたとされています。当初は、中国から輸入された「唐物」が重宝されており、派手できらびやかな文化だったといいます。しかし室町時代には、日本製の質素な茶道具を使用し、ホストとゲストの精神的な交流を大切にする「わび茶」が成立しました。安土桃山時代には、かの有名な千利休(せんのりきゅう)が「わび茶」を完成させ、それが現在の茶道の礎になっているといわれています。
茶道にも多くの流派があり、八戸市には表千家、裏千家宗偏流・江戸千家・遠州流などの流派が。毎年こちらの5流派が集う「八戸市総合茶会」も開かれているそうですよ。
〈山口源兵衛商店〉では、茶会に出る茶道の先生や生徒さんにも、道具を納めているのですが、流派によっては使う道具や、茶の立て方がまったく異なります。ちなみに流派によっては「茶道」といったり「茶の湯」といったり、名称も違うのだとか!
ですから、とびこみで生徒さんが茶道具を購入に来た際は、必ず流派を聞くことにしていると、義三さん。自身にもそれぞれの流派にまつわる知識はありますが、先生にきちんと確認をとるようにアドバイスしています。
ほかにも、八戸市内にある高校茶道部にも茶道具やお茶を納めているそうです。
ところでみなさんは、茶道についてどれくらい知っていましたか? 正直私は、〈山口源兵衛商店〉を訪れるまで茶道について、何も知らず、取材前も執筆時も、いそいそとネットサーフィンに勤しみました。
茶道を始められる人のなかには、純粋にお茶を楽しみたいだけではなく、日本文化を継承するためという人が多いのでしょう。なかには、フランス人のお客さんで、母国で日本文化を広めたいといってお茶を覚えた人もいるそうです。広めたいと思ってくれてありがとう(涙)! メルシー!!
東京五輪を誘致する際、非常に大きな話題にもなった「おもてなし」。海外でも高く評価される「おもてなし」は、まさしく茶道の精神からくるものです。
SNSが普及した現在、どこの誰かもわからない人の、派手で華やかな、いわゆる“映え”に目がいきがちな私たち。ですが、私たちが大切にしなければいけないのは、目の前の人を大切にするということなのかもしれません。日本文化の礎となる真の「おもてなし」を、茶道を通じて学ぶのもよさそうです。
最後に、これからの時期におすすめのお茶を義三さんに聞いてみました。答えは「新茶」!
店主の山口義三さん。
新茶とは、その年の最初に摘み採られた茶葉を使用してつくったお茶のこと。「八十八夜」に摘み採られるお茶を飲むと、一年を無病息災で過ごせるという言い伝えがありますが、その「八十八夜」にあたる時期がおおよそゴールデンウィーク頃。八十八夜とは、立春から数えて88日目にあたる日のことで、春から夏に移り変わる節目の日でもあり、縁起のいい日ともされています。時期的にも茶摘みの最盛期で、気候条件もよく、極上のお茶になるのだそう。
飲むときは、水道から出した水であれば、一晩おいた水がいいのだそう。そのまま飲んでもいいのですが、なんでも午前中は水道水のカルキが濃く、お茶の魅力が半減してしまうのだとか。
新茶の場合、茶葉が柔らかいのでぬるめのお湯で召し上がれ。
茶道の考え方に「一期一会」という言葉があります。文字通り、人との出会いを一生に一度のものと思い、相手に対して最善を尽くしてもてなすこと。お互いがお互いを思いやることに、おもてなしの本質が隠れているのかもしれません。
〈山口源兵衛商店〉のおいしいお茶で、お客様を“おもてなし”してみませんか?