蕪島を望むロケーションに店を構える〈STOKED Doughnuts〉。取材に訪れた平日でも、開店前の駐車場にはすでにお客さんの姿が。2022年7月に移動販売でイーストドーナツの提供を始め、翌年5月には鮫町に待望の実店舗をオープンしました。
移動販売の頃は提供数に限りがあり、なかなか手に入らない......なんてことも。店舗をオープンしてからも行列ができることもしばしば……という噂を聞いていた筆者は、ワクワクしながら入店!

定番メニュー5種類のほか、日替わりメニューも。ラインナップが常に変化するなんて、選ぶ楽しさが生まれて、これは通いたくなる!
今回ははりきって、この5つをチョイスしてみました。

左上からくるみ、ココアホワイトチョコファッション(日替わり品2つ)。チョコレート、オリジナルグレーズド、ラズベリー(定番品3つ)。軽くてモチモチ食感の理由は、青森産「青天の霹靂」の米粉を使用しているから。それぞれのドーナツにかかるソースはほどよい甘さで、最後の一口まで飽きずに味わえました。

〈STOKED Doughnuts〉の定番・オリジナルグレーズドには、〈me-me’s garden〉から仕入れた八戸産の非加熱はちみつを使用。加熱処理をしていないからこそ、はちみつ本来の酵素や香り、味わいなどが残り、口に入れた瞬間にやさしい甘みが広がります。「八戸や青森は食材の宝庫。ドーナツを通じて、その魅力を少しでも伝えたい」と古川さんは語ります。
「あの味を再現したい」その思いから、全てが始まった

〈STOKED Doughnuts〉公式Instagramより
アメリカから上陸したドーナツチェーンで、温めてもらって食べたイーストドーナツの味に大感激した古川さんは、以降全国各地のドーナツを食べ歩くようになります。八戸にUターン後、身近にイーストドーナツを食べられる環境がなかったため「その味を自分で再現したい」と、独学で研究を重ねて自作するようになりました。今や地元で人気の〈STOKED Doughnuts〉ですが、その裏には、飲食業未経験から挑戦を始めた古川さんの強い思いがありました。
「注文したドーナツは写真を撮って、お店にどんなメニューがあるか、価格帯など全て記録していました。テイクアウトできるときには、重さや大きさも測ってノートにまとめて、いつでも振り返られるようにしていたんです」
何度も試作を重ねるうちに、家族や友人から喜ばれるようになったと話す古川さん。ベーキングパウダーで膨らませたドーナツが主流のなか、「あまり馴染みのないイーストドーナツのおいしさを、多くの人に伝えたい」という思いが、大きな原動力となったのです。
「実は私、40歳のときに調理師専門学校に社会人入学して、調理師免許と食育インストラクターの資格を取得したんです。地元の食材を使ったアイデアレシピを考案して料理コンテストに出品したり、料理教室や子ども向けの食育講座を主催したりするなかで、青森県が食材に恵まれた地域だと実感しました。〈STOKED Doughnuts〉で地元の食材を使う理由は、まさにここにあります」
専門学校を卒業後の2019年に、本格化したというドーナツ作り。成形についても、YouTubeを見ながら研究したり、他店の厨房をのぞいたり、パン職人から直接レクチャーを受けたりと、試行錯誤を重ねました。

「発酵させて作るイーストドーナツは生ものなので、気温や湿度に大きく左右されます。毎回出来上がりが違ってしまい、それを安定させるのに多くの時間を要しました」
好きなものがないなら、自分で作ってみよう——。飲食未経験から、独学で試作し始めたイーストドーナツが身近な人々の喜びにつながり、2022年には移動販売をスタート。翌年にオープンした〈STOKED Doughnuts〉は、いつしか鮫町を盛り上げるホットスポットとなりました。
生まれたこのまちで
実店舗オープンに向けてさまざまなエリアで物件を探していたという古川さんに、なぜ鮫町を選んだのか理由を尋ねてみると——。返ってきたのは、こんな回答でした。
「祖父母宅が鮫町にあったこともあり、蕪島付近は私の原風景でした。私の子どもが生まれた頃に住んでいたのも鮫町で、よく海岸沿いをドライブして寝かしつけたり、気分転換に海辺でボーッと過ごしたりしていたんです。 “いつかは海の見えるところでお店を開けたらいいな”という漠然な思いがあって鮫近辺で場所を探していたところ、ここを見つけて即決しました」

古川さんは、姉妹店〈ハチフリッツ〉も運営。2025年5月に同じ建物内にてオープンしました。

こだわりの食材を使用したフライドポテトを提供する〈ハチフリッツ〉。青森県のクラフトビールなどお酒類もあり、〈STOKED Doughnuts〉の店内で楽しむこともできます。甘いものを食べると、ついしょっぱいものが欲しくなる……。そんな欲求を満たせるなんて、無限ループにハマってしまうかも。

2階のイートインスペースから見える蕪島。こうした設計にも、地元を愛する古川さんの思いが表れていました。
2022年にスタートし、4年目を迎えた〈STOKED Doughnuts〉。「この景色を見て、故郷に愛着を持ってもらえるきっかけになったなら、こんなに嬉しいことはないです」と古川さんは話します。
「ワクワクする、心が躍る」という意味を持つ「STOKED」。たくさんの観光客や地元の人々で賑わう蕪島で、今日も〈STOKED Doughnuts〉は鮫町から多くの人々に、笑顔とおいしいドーナツを届けています。