老舗額装店〈彩画堂〉がつくる、アートを通じた出合い。
老舗額装店〈彩画堂〉では、画材販売から額装サービス、さらに2階のギャラリーで自身の作品を発表するところまでフルサポートしてくれます。絵を描きたい人も、見たい人もぜひ〈彩画堂〉で。アートを通じた素敵な出合いがここにあります。
JR八戸線 本八戸駅北口から徒歩3分。一軒家のような真っ白な建物は、1974(昭和49)年創業の老舗額装店〈彩画堂〉です。
今回取材に対応してくださったのは店長の松田悠也さん。悠也さんの祖父にあたる松田幹(かん)さんが創業し、現在は悠也さんの父である和幸(かずゆき)さんが2代目として事業を継いでいます。
“額装店”と聞くと、額縁関係のみの取り扱いかと思い込んでいた筆者ですが、〈彩画堂〉では絵を描く際に必要な鉛筆、筆、絵の具、キャンバス、紙などの画材の取り扱いから、額縁の制作・販売、取り付けまで、つまり「絵を描くところから飾るところまで」を網羅しています。
絵を描く際に身につけるエプロンや、大人気〈木村書店〉のポプ担作品まで!
額装店として、額装の品揃えももちろん豊富です。
既存の額縁に作品を入れるだけの額装だけでなく、額装の形、色などのデザインもひとつひとつ相談して製作してくれます。
取材させていただいたテーブルの引き出しを開けるとサンプルがずらり!
また、額装は紙媒体だけでなく、立体のものも入れることができます。
メダルが浮いてる!
こちらは店内入り口入ってすぐ、左手側に飾られている賞状とメダル。立体的な額縁は、賞状とメダルと一緒に飾ることができ、スペースの節約にもなりますね。
絵画や賞状だけでなく、鏡や刺繍、雑貨などを飾るための額装もおこなっています。額縁に入れて飾りたいものがあれば、まずはお気軽に相談に行ってみてはいかがでしょうか。
芸術は時代の変化と共にある。伝統工芸品だってデコ盛りされる(?)
これまで八戸での数々の芸術活動を支えてきた〈彩画堂〉ですが、芸術活動は時代背景と大きく関連性があると松田さんは語ります。
例えば、昔は絵画といえば油絵でした。景気の良い時代には、時間もお金も自身の余暇に使う人が多く、比較的高価で、乾かすために完成まで時間がかかる油絵も、学校の授業や絵画教室など、一般的に取り入れられていたのだそう。
しかし、経済状況が変わり、人々にはやること・やりたいことが増え、いわゆるタイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを考える時代に移り変わっていきます。現在は油絵よりも、価格帯も約半分以下のアクリル絵の具や水彩絵の具が主流になっているそうです。
また、現代はデジタル技術も発展しており、スケッチから完成までをすべてタブレットで完結させるデジタルアートを描く人も増えています。油絵やアクリル画といったアナログな手法よりも、修正や手直しが簡単なデジタルアートは“時短”になるというわけです。
このように時代とともに変化していく芸術の形ですが、筆者は〈彩画堂〉でその最たる例を発見してしまいました……!
それは、我らが郷土玩具「八幡馬」。八幡馬とは、八戸市を中心とした南部地方に伝わる木彫りの馬で、青森県の伝統工芸品です。日本三駒のひとつでもあり、一般的には赤・黒・白を基調とした色が塗られ、点星を描いたものやうみねこや阿房宮など郷土の模様を取り入れたものがあります。
▼キャプション
〈八戸ポータルミュージアム はっち〉では、たくさんの八幡馬がお出迎えしてくれています。
「〈彩画堂〉でも八幡馬が販売されています」と松田さんに促され、見てみると……。
八幡馬がデk、デコ盛りされてる!! デコ八幡馬ッ!!!
文章なのに、思わず噛んでしまうほどの衝撃。一説によると嫁入り道中の盛装馬をモチーフにされているのではないかといわれる八幡馬が、もはや八幡馬自身がウェディングケーキみたいになっている……! これは一体どういうことなのでしょうか、松田さん!
「〈彩画堂〉では、長年親しまれてきた八幡馬を後世に伝えていくために、八幡馬の製造企業〈八幡馬〉とコラボして、地元作家さんにオリジナルの八幡馬をつくってもらったんです」
実は〈彩画堂〉では、2023年8月に『第1回八幡馬祭り』を開催。従来の八幡馬だけでなく、既存の装飾にとらわれない、色とりどりの八幡馬が同店2階のギャラリー〈アートフォース〉にて展示されました。衰退しつつある伝統文化を守るため、これからの八幡馬の形のひとつとして、オリジナリティあふれるデザインをしてもらうというアイデアから行われたそうです。
さらに同年10月には〈八戸市美術館〉でも同様の企画を開催。八戸市にとどまらない県内外の作家から「時代に合わせた八幡馬」を募集し、約65点の作品が展示されたそうです。
伝統工芸品というと、一部の職人が、ひとりで黙々とつくっているイメージがあります。職人にしかつくれない伝統的な技術を守っていくことも大切ですが、それと同時に、市民に愛され、身近に感じてもらうことも必要なのかもしれません。それこそ、時代に合わせて変化した姿となりながら。
これからの八幡馬は、「市民がデザインするもの」になっていくのかもしれませんね。
そのままの素朴な君も大好きだよ。
人・もの・ことがつながるアートギャラリー〈アートフォース〉。
〈彩画堂〉が現在の店舗に移転してから、ちょうど10年。移転するにあたり、それまでの店舗と大きく変更した点があるといいます。それは、2階にギャラリー〈アートフォース〉を設置したこと。
2階へとつながる階段。
前店舗でも画材販売から額装サービスまで提供していましたが、新店舗の開業にあたり、絵を描き、飾り、さらに自分の作品を発表するところまでサポートする要素を追加しました。
また、展示会に訪れた観覧者同士で、もしくは作家とゆっくり談話できるよう、カフェも併設されています。コミュニケーションを深めるためのハブのような機能を果たしているのです。
カフェの様子。大きな窓から外の景色が見えて気持ちがよい。
取材時に、ちょうど〈八戸写真研究会〉の展示会「八戸写真研究会 2023年『秋展』」が開催されていました。毎年『春展』と『秋展』の2回、展示会を開催しているのだそう。1947(昭和22)年に発足した同会は〈彩画堂〉との関係も深く、『春展』は〈八戸市水産科学館 マリエント〉で、そして『秋展』は〈アートフォース〉を利用しています。
『秋展』には共通のテーマがなく、会員各々の個性が光る写真が飾られていました。なかには〈彩画堂〉と相談して選んだ額縁で飾られている作品も。
ギャラリーを使用する際のジャンルの制限は特になく、絵画や工芸作品の展示に限らず、これまでにはコンサートやヨガなども実施されてきたそう。とにかく〈アートフォース〉の空間を有効活用してくれるのであれば、なんでもOK! というスタンスです。
〈彩画堂〉の理念に「アートを通して、人と人、モノ・文化・地域とつながる場所」があります。ひとつの枠にとらわれず、展示会や発表を通して、人々や物事が繋がり、素敵な出合いがあるよう、日々サポートしています。
展示会やイベント主催が未経験の方でも、いちからサポートしてくださるので安心です。興味がある方は、まずは相談しに足を運んでみては?
アートは必要? アートから学ぶ人生のすすめ。
みなさんは「アートを楽しむ」ために必要なものはなんだと思いますか? 作品に対する知識でしょうか。絵を描く技術でしょうか。世界の歴史を知っていることでしょうか。
どれも楽しむために必要なものだと思いますが、一番必要なものは「目の前の作品をわかろうとする気持ち」ではないかと思います。
店長の松田悠也さん。
「絵は自己表現のひとつです。描き手が、見る人に自分の気持ちをわかってもらうためにどんな工夫をしたのか? 見る人は、この作品をどうやって解釈しようか? と考えることが大切だと思います。わかってもらえたら描き手は嬉しいし、たとえ本来の意図と違う解釈が出ても、それはそれで新たな発見が生まれる面白さが、芸術にはあると思います」と松田さん。
そしてこれは人間関係にも通じるところがあるようです。〈彩画堂〉で勤め始めた頃の松田さんは、当初はお客さんが持ってくる作品に対し、知ったかぶりをして相槌をうつこともしばしば。お客さんとの関係がうまくいかないことに危機感を持ち、それから素直に質問するようになったといいます。今では、どんな気持ちで描いたのか? これを描いたのはどんな時代だったのか? と深掘りしていきながら、お客さんひとりひとりの「自己表現の源」を知ることを大切にしています。
実際のところ、アートは生活必需品ではありません。生活の中になくていいものだけど、ないと寂しく感じてしまうものです。
「私たちは、アートの必要性や重要性、魅力をいろんな形で表現していきたいと考えています。これからも展示会やワークショップも開催していきますから、アートを通じて人と人とを繋ぐ新たな出合いを創造していきたいです」と語る松田さん。
芸術鑑賞するとき、持っている知識や生きてきた背景は人それぞれ。だからこそ、多種多様な解釈を「みんな違って、みんな良い」とフラットに対話できる時間や空間が必要なのだと思います。アートを通じて人と、地域とつながることができる最適の場所が〈彩画堂〉にあります。
買うものがなくてもお気軽に〈彩画堂〉へ。展示がある日はぜひギャラリーも見ていってください。画材や額装だけではない、素敵な出合いが、〈彩画堂〉であなたを待っています。