“うま味”を感じるピーマン、食べたことある?〈NanburGrapples〉と〈アテな惣菜スズメさん〉【豊崎町】
八戸の農産物といえば何を思い浮かべますか? 伝統野菜の糠塚きゅうりや、南郷のブルーベリーにいちご、そばなどでしょうか。実は、八戸はピーマンの産地でもあるんです。9月某日、はちまち編集部では、八戸市豊崎町でピーマンを作り始めて5年目の〈NanburGrapples(ナンバーグラップルズ)〉の畑で収穫体験をさせてもらってきました。
八戸の農産物といえば何を思い浮かべますか? 伝統野菜の糠塚きゅうりや、南郷のブルーベリーにいちご、そばなどでしょうか。実は、八戸はピーマンの産地でもあるんです。9月某日、はちまち編集部では、八戸市豊崎町でピーマンを作り始めて5年目の〈NanburGrapples(ナンバーグラップルズ)〉の畑で収穫体験をさせてもらってきました。
子どもの苦手な野菜の代名詞、ピーマン。独特の苦みや青臭さが子どもの頃には得意ではなかったけれど、大人になっておいしさに気づいた、という人も少なくないのでは?
かくいう私は最近、八戸で生産されているピーマンを食べて感動しました。野菜を食べたときに「甘い」という褒め言葉が出ることはありますが、そのピーマンを生でかじったときは、塩味に似た「うま味」を感じたのです。日本人が発見した、世界に誇る「UMAMI」がここに!
そのピーマンを作っている人こそ、〈NanburGrapples(ナンバーグラップルズ)〉の屋号で農業を行う吉田宗司(よしだしゅうじ)さんと、妻の咲子さん。
はちまち編集部では、9月某日、八戸市豊崎町の吉田さんの畑にお邪魔して、収穫体験をさせてもらうことにしました。
朝10時、吉田さんとの待ち合わせ場所は、豊崎町の七崎神社。境内には樹齢1000年以上とも伝えられる八戸市指定天然記念物の「七崎神社の大杉」をはじめ、大きな木々が立つ気持ちのいい場所です。
ここでお参りしてから、吉田さんの軽トラのあとに続いて畑へ向かうことに。
わだちを乗用車で進んでいきます。木々や雑草にコーナーセンサーがピーピー反応したり、途中で軽トラを見失ったりしながらも、なんとか到着!
着いたぞーっ(同行してくれた小田桐さんがポーズとってくれた、さすが撮られ慣れておる)。奥に見える軽トラ、ピーマン色だ!
〈NanburGrapples〉のピーマン畑は、山の斜面を利用して3段に広がります。畑に近づくにつれ、なんだかピーマン特有の青々しい香りが……!
ここで農業をはじめて5年目の吉田さんですが、もとは製薬会社に勤め、全国を転々としていたそう。転勤生活に別れを告げて出身地の八戸へUターンすると、「せっかくならやってみたかったことを」と考え、新規就農しました。
しかも、ハードルの高い「特別栽培」でピーマンを生産しています。
「特別栽培」とは、節減対象の農薬や化学肥料の使用量を通常の50%以下に減らして生産した農産物のこと。その地域の慣行レベルを基準にしていて、青森県でのピーマン栽培は農薬の散布は8回が基準。そのため「特別栽培」にするためには4回以下に減らす必要があります。苗の時点で農薬が2回使われているので、吉田さんの畑では、自然のなかにある物質からできた農薬のみを使っているのだそう。
ちなみにお隣の岩手県は20回、秋田県でも15回が農薬散布の基準なので、青森県ではかなり厳しい基準が設けられていることがわかります。
もしスーパーに同じ「特別栽培」が並んでいたとしても、産地によって農薬や化学肥料の使用量が変わるとは……! 青森県産の「特別栽培」を選んだほうがお得な感じがします。
「ただ、農薬イコール悪だとは思わないでほしいんです」と、吉田さんは話します。
〈NanburGrapples〉代表の吉田宗司さん。
「農薬は害虫被害や病気から農作物を守るために散布するので、1剤減らすだけでも本当に大変なんです。せっかく育てた農作物が全滅してしまうリスクもあり、代替手段を考えなくてはならないですから」
吉田さんが農薬の代替手段として行っているのは、畑の隣に緑肥作物を栽培し、生物多様性を守ること。
「『緑肥作物』は、土作りの肥料になる作物です。キク科のヒマワリや、アブラナ科の大根、マメ科のクローバーなど、シーズンによって生育の変わる9種類の種を蒔いているんですが、それぞれを好む虫がいるんですよ」
たしかに吉田さんの畑には虫がたくさん。イネ科の植物にはカエルもいた。
「ピーマンだけ作っているとピーマンが好きな害虫しか集まってこないけれど、生物多様性のある環境にすることで、ピーマンについた害虫を食べてくれるやつもいる。結果として農薬を減らすことができるんです。もちろん葉っぱの病気もあるので、有機JASでも認められているボルドー液を使うなど、試行錯誤しています」
写真の向かって右側に広がっているエリアに緑肥作物が栽培されている。
この緑肥は最終的に粉砕して土の中に入れることで、有機物を分解する微生物が長い間かけて分解しながら畑の肥料になっていくのだそう。畑の位置を毎年交互にすることで、土の環境を豊かにしながら、生物の多様性も保全していきます。
また、肥料は有機肥料を中心に、化成肥料とのメリット・デメリットを見極めつつ使い分けている、と吉田さん。
低い位置を移動しながら手際よくピーマンを収穫していくパートさん。
「有機肥料にも、動物のフンや、血や骨などの残渣(ざんさ)、海藻に魚粉を使ったものなどいろいろあるんですが、原料によってアミノ酸の成分が変わるので、うま味成分を組み合わせるようにして使っています」
ピーマンにうま味を感じたのはこのおかげだったのか……!? ワインでも海の近くで育った品種だと、塩味を感じるような味わいになることもあるので、肥料も影響しているのではないでしょうか。
「実際のところ、どこまで味に影響があるかわからないし、自己満足の世界です」と吉田さんは笑いますが、確かにうま味を感じたので、仮説は間違いじゃないのでは?
……と、難しい話が続いてしまいましたが、収穫体験をさせてもらいましょう! ツヤツヤに輝くピーマンがたわわに実っています。
手前にクイッと折るともぎとれると聞いて、さっそく……。
もぎとって……
余分な茎をカット。
売ってるピーマンの姿だ!
こんなに獲れました!
おすすめの食べ方を聞いてみると、「生でも食べられるので、まずは生で味見してもらいたいです。あとは郷土料理のピーマンとにしんの和えものもおすすめです」とのこと。
帰ってからピーマンを生でかじってみると、肉厚でジューシー、やっぱりうま味がある……! 添え物のようなイメージがあったピーマンですが、これなら食卓の主役になり得ます。
さて、吉田さんの作ったピーマンですが、どこで買えるのでしょうか。
八戸市内だと、2024年2月に根城にオープンした、無農薬・オーガニック野菜や、エシカルな商品を販売する八百屋さん〈No.5〉。他にはECサイト、首都圏のイトーヨーカドーや西日本のコープなどのスーパーに並ぶそうです。
八戸市で作られているのに、八戸市で買える場所が少ないのには、こんな理由がありました。
「どうやって作られているかにまで興味を持つ人が八戸にはまだ多くないんだと思います。地元のスーパーでは安いピーマンが並んでいて、そちらのほうが手にとられます。スーパーにある産直コーナーに出しても、自分のピーマンが他の生産者のピーマンの下に隠れていた、なんてこともありました。
うちのピーマンは決して高いわけじゃなく、適正価格で買ってもらいたいだけなのですが、他のピーマンとの価格競争になってしまうと勝ち目がない。なので、適正価格で買ってくれるところに流通していきます」
もちろん安定して生産される安いピーマンが食卓を支えている面もあり、安いピーマンが悪いというわけではありません。ただ、生産方法にこだわったおいしいピーマンを食べるには、消費者がリテラシーを高めていく必要がありそうです。
吉田さんの作ったピーマンを食べる方法は他にも。
吉田さんが同町内に2023年9月にオープンした〈アテな惣菜スズメさん〉では、ピーマンを使ったメニューも提供。その名の通り、お酒の“アテ”になる惣菜や、野菜たっぷりのお弁当を販売しています。
「できるだけ国産、できるだけ地元産、できるだけ自園産もしくは味にこだわっている、もしくは自然に優しい栽培している農家仲間の農産物を使っています。生産者の顔が見える野菜たくさんの健康的なお弁当と、思わず呑みたくなるお酒のアテになる惣菜をテーマにした八戸ののんべえな農家@nanburgrapples が営む弁当屋です」───Instagramより。
昨年、筆者が購入した惣菜たち。塩味や酸味にメリハリがあって、冷めたときにおいしいよう考えられていると感じた。
〈アテな惣菜スズメさん〉は10月から6月頃に営業しており、農業の繁忙期となる7月から9月頃まではお休み。営業期間中は土・日曜を中心にオープンしています。日本ワインの立ち飲みもできるので、南部バスで行きましょう!
2月に行われたイベントの様子。
実は吉田さん、ワインエキスパートの資格も持っており、宮城や山形のワイナリーや、長野の千曲川ワインアカデミーでぶとう栽培とワイン造りを学んできたそう。
南郷にある畑では、減農薬でワイン用のぶどう作りをはじめて3年目になります。
「ワインぶどうの減農薬栽培は大変難しく、毎年困難にぶち当たってますが、少しずつ前に進んでいる感じはするので、来年、再来年くらいには収穫できるかなと思います」とのこと。
ピーマンのお惣菜をアテに、吉田さんの造ったワインを飲める日が楽しみです!