吹き抜けの穴からオーダーできる〈無国籍居酒屋BON〉。無国籍居酒屋ってなに?【長横町れんさ街】

夜の訪れとともに多くの酒飲みが集まる長横町れんさ街。バラエティ豊かな店が立ち並び、それぞれ個性ある看板が点灯すると、まるで異世界のよう。まんまるな看板に明かりを灯す〈無国籍居酒屋BON〉も、ユニークなお店のひとつです。足を踏み入れるとそこは“無国籍”。でも、無国籍ってなんだろう? 店長の「かっぱさん」に案内してもらいましょう。

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なつめ-natsume

1995年生まれ。青森県八戸市出身・在住の駆け出しライター/フォトグラファー。郷土愛たっぷりな3人組『海猫ふれんず』として、八戸圏域の魅力発信を中心に活動中。誰かが守り続けてきてくれた今ある地元を、今度は自分たちが守り、未来へ繋げることをテーマに日々成長していければと思います。

『海猫ふれんず』
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“無国籍居酒屋”では吹き抜けの穴から注文ができる!?

八戸の中心街には、狭い路地に飲食店が立ち並ぶ、8つの横丁が張り巡らされています。そのひとつが、“長横町れんさ街”。長横町に面してU字型になった路地で、鷹匠小路に面した“ロー丁れんさ街”とつながっています。“れんさ街”と呼ばれるようになったのは、このふたつの横丁が鎖をつなぐようにして飲食店が並んでいたことに由来しているそう。

「れんさ街」と掲げられた木造の看板の先を覗いてみると、ぎゅっと立ち並んだ店々から、いろんな形の看板が細い路地に突き出しています。カラフルに点灯している様子はまるで異世界のよう。居酒屋やカレー屋、寿司屋や焼肉、老舗のバーまでバラエティに富んだ店が揃います。

そんな長横町れんさ街のちょうど角地にあるのが、〈無国籍居酒屋BON〉。店名が掲げられた丸い看板を目印に、店内へ足を踏み入れると、ウッド調の空間にステンドグラスの照明が優しく灯っています。

1階にはカウンター席のほかに、可愛らしいクッションがいくつも並んだコの字型のベンチ席があり、その壁に設置されている黒板には手書きのメニューが。

何を食べようかと悩んでいると、頭上から「すみませーん!」と、スタッフを呼ぶ声が降ってきます。不思議に思い天井を見上げると、カウンターの上部が吹き抜けの構造になっているようです。

2階に上がってみるとそこにもエキゾチックな空間が広がります。ステンドグラスの照明が各テーブルをあたたかく照らす空間で、ゆったりとくつろぐことができそうです。吹き抜けの穴からは厨房の様子を覗き見ることができ、調理中のいい匂いもしてきます……。しかも、ここから1階のスタッフに声を掛けて、注文してもOKなのだとか。

2階に飾られている絵画は2人組の絵画作家〈Gravityfree〉が13周年記念のパーティーの際にゲストとして訪れ描いた作品。 

“無国籍居酒屋”のメニューのレシピのひみつ。

料理は手前右から、「ガパオライス」(750円)、「ベトナム風ブタの角煮」(500円)、「マリネードジャークチキン」(650円)。

定番メニューはジャマイカ料理の「マリネードジャークチキン」や「ベトナム風ブタの角煮」、タイ料理の「ガパオライス」など多国籍なラインナップ。

しかしこちらは“無国籍居酒屋”。一体どういうことなのかというと……、玉ねぎのマリネがさっぱりスパイシーなジャークチキンには、シナモンやタイムなど10種類ほどのスパイスが使われていたり、鶏肉が使われることの多いガパオライスには合い挽き肉を使っていたり。各国の定番メニューをちょっぴりアレンジしているから、“無国籍”なんですね。

各国の定番料理にオリジナル要素が加えられた、ここでしか食べられない料理がずらりと並ぶメニューを見ているだけで、胸が踊るようです。 

 

オリジナルグッズやライブにも注目。

〈BON〉で楽しめるのは料理だけではありません。お店のファンに評判なのが、ここだけで買えるオリジナルグッズ。ニット帽やTシャツを作って販売しています。

シャツ(中央)の手が3本並んだマークは手話で店名の〈BON〉を意味するもの。

店内で食べることも、持ち帰りも可能な「BON自家製スモークナッツ」(1,100円)は、なんと店主の自宅の庭でスモークしているそうです。使用するスモークチップはさくらやオークなどをブレンドしたもの。お土産として買っていけば、自宅でもリモート飲みのいいおつまみになるかもしれません。現在はオードブル(3,520円)の注文も受け付けているそうです。また、2階を使って不定期で開催している音楽ライブも見逃せません。 

 

“無国籍居酒屋”のかっぱさん。

カウンター越しに出迎えてくれたのは、バックパッカーの過去を持つ店主の河村さん。学生時代、担任の先生が出席をとろうとしたとき、「かっぱの河だね」と呟いたことをきっかけについたあだ名が「かっぱ」だったそう。現在では店を訪れる人々にも「かっぱ」さんの愛称で親しまれています。

憧れの先輩が旅に出たことをきっかけに、旅への思いが生まれたかっぱさん。結婚後もその夢を抱き続け、ついに一年にわたるバックパックの旅に出ます。アジアを中心に10ヵ国ほどを巡ったそう。

〈BON〉で楽しめる「チャイ」(600円)は、インドにいた頃にかっぱさんが毎日2〜3杯は飲んでいたというインドの大衆的な味を再現したものです。カルダモンやシナモンなどが入った温かいチャイは、コクのある甘さとぴりりと効いたスパイスで、私たちの心をほっと落ち着かせてくれます。なんとラム酒を入れて楽しむこともできるそうですよ。

お店を始めたのは2000年11月1日のこと。実はかっぱさんがバックパックの旅に出る前から現在の店舗は空き物件だったそうです。

「帰国したときもこの空き物件が残っていたら、そのときは自分の店を作ろうって思っていました。すると、帰国後も空き物件のまま残っていて。以前はお好み屋さんだったぼろぼろの店舗を、友人と協力して自分たちの手でつくり上げたんです」

そのときに生まれたのがこの吹き抜け構造のアイデア。一階と二階で空間が分断されず、雰囲気や音を共有できたら面白いのではないかと考えたそう。

そして、店内を彩る大小さまざまな色のステンドグラスの照明は、作家としてワークショップなどを行っているかっぱさんの妻が手がけました。

店名となったBONについて、「昔はバンドをやっていたこともあって。西アフリカ系の音楽で、そのとき太鼓を叩いたりもしたから。太鼓ボンボンってね」と懐かしそうに話をしてくれたかっぱさん。店の名前はとにかく誰もが覚えやすいキャッチーなものにしたかったそうです。

バックパッカー時代のフィードバックがふんだんに詰め込まれ、〈無国籍居酒屋 BON〉が長横町れんさ街に誕生しましたが、「ガパオライス」や「カオマンガイ」といったようなアジア料理の名前は、当時あまり知られていなかったようです。そのため、それぞれ「挽肉バジルご飯」や「蒸し鶏とライムのバターライス」とメニューに記載していたのだとか。

その後、時代に合わせてメニューの名前を変え、改装を経て、開店してから足掛け21年となります。昨年は開店20周年を記念するフェスを予定していましたが、新型コロナウイルス流行のため延期することになりました。「そのうち盛大にやる予定だよ」と抱負を語ります。

開店当時は21年も店が続くことは頭になかったということですが、「定年と呼ばれる歳になっても、その先だって、この店をこの長横町れんさ街で続けていきたい」とかっぱさんは言います。「何とかなるって思うんだよね。この生活が今すごく気に入っているから」と語るかっぱさんは、いきいきとまるで少年のような笑みを浮かべていました。

20代の若い人からかっぱさんと同年代の人たちまでさまざまな人が訪れる〈無国籍居酒屋BON〉。おしゃれな雰囲気や、他店では味わうことのできない“無国籍”な料理が魅力ですが、店主かっぱさんのいきいきとした無邪気で少年のような人柄も、幅広い年代の人々に愛される理由のひとつなのではないでしょうか。“無国籍居酒屋”の魅力、いちど味わってみては?

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