
八戸は“なにもなくない”。市民集団〈まちぐみ〉の活動が、まちを面白くする。【内丸】
本八戸駅から中心街に向かう途中、カラフルな装飾をまとう建物を目にしたことはありませんか? お店とも住居とも違う、謎めいた佇まい……。その正体は、八戸のまちに“なんか楽しそう”を作りだす市民集団〈まちぐみ〉の活動拠点〈まちぐみラボ〉でした。
本八戸駅から中心街に向かう途中、カラフルな装飾をまとう建物を目にしたことはありませんか? お店とも住居とも違う、謎めいた佇まい……。その正体は、八戸のまちに“なんか楽しそう”を作りだす市民集団〈まちぐみ〉の活動拠点〈まちぐみラボ〉でした。
2025年開催【ライター養成講座】受講修了者
・青森県八戸市出身
・30代
・社会人
・趣味は飼い猫と遊ぶこと
〈まちぐみラボ〉の中には、かつて三社大祭の山車に使われていた装飾品たちが。
八戸に“なんか楽しそう”を作りだすべく活動している市民集団〈まちぐみ〉。2014年10月に発足し、組員と呼ばれるメンバーが「まちをより魅力的にしたい」という思いで、さまざまな取り組みをしています。手を挙げれば誰でも組員になることができ、取材時点(2025年7月)でその数なんと653名。八戸に興味があれば、出身や居住地を問わず登録できます。出張で訪れて「何だか面白そう」と、そのまま組員になる人もいるんだとか。
“組長”に君臨するのは、愛知県出身のアーティスト・山本耕一郎さん。青森にゆかりのない山本さんが八戸への移住を決断し、市民集団を立ち上げたのはなぜだったのでしょうか。お話を聞きました。
建物の隣に設置してある「おもしろ自販機」と山本さん。「すっぽんスープ」や「白い恋人チョコレートドリンク」など、めずらしい商品が並びます。かつて入れていたもののなかにはすでに廃番になったものもあるんだとか……。
2011年、八戸市の地域観光交流施設〈ポータルミュージアム はっち〉の開館にあわせて、“なんか楽しそう”なプロジェクトを始動した山本さん。まちや人のうわさが書かれたフキダシを八戸の中心街に張り出す『うわさプロジェクト』を展開しました。そこで多くの人と出会い、交流が生まれ「八戸が大好きになった」といいます。
「八戸以外の地域でも滞在型の仕事をしてきたけれど、ここに住みたいなと思ったのは八戸が初めて。最初のプロジェクトを終えて一度離れたけれど、八戸が好きな気持ちが変わることはなくむしろ増えていきました。それで、家ありませんか? といろいろな人に相談をして(笑)」
ご家族の転勤や自身のキャリアにより、いろいろな土地での暮らしを経験された山本さん。2012年には、八戸市南郷に移住することに! 決め手はズバリ“人”だそう。
「あたたかみ、という単語だけでは言い表せない八戸人のすばらしさ。何か言葉があればいいのですが……。他の地域にはないと思いますね」
筆者は八戸で生まれ育ち、大学生活を除いて30年以上このまちで暮らしています。地元の魅力を聞かれ、パッと思い浮かばないこともしばしば……。それに対し、八戸は決して“なにもなくない”と山本さん。その目に映るまちと市民について伺いました。
八戸の人が持つ力を活かし、みんながまちのために活躍できる場所を作りたい――。そんな山本さんの思いから〈まちぐみ〉が発足され、市民巻き込み型の活動が始まりました。山本さんが面白いと感じることを提案し、それに共感した人が集まる。市民の「まちのために何かしたい」という気持ちの受け皿が、〈まちぐみ〉の役割だといいます。
たとえば、〈はっち〉の椅子の背もたれに、青森県南地域の伝統工芸である南部菱刺しを施すものづくり体験。ほぼ毎月第3日曜日に開催しているイベントで、誰でも自由に参加できます。ふらりと立ち寄りもくもくと作業するのは、子どもから大人まで幅広い年代だそう。常連になった方が初心者に刺し方を教えることも。山本さんは「あそこに私が(菱刺しを)刺した椅子があると思うと、〈はっち〉が人に自慢したくなる場所になる」と笑います。こうしてまちと個人のつながりができ、まちづくりが自分事になっていくのです。
建物の2階は〈まちぐみクリエイティ部〉のギャラリー。ものづくりを得意とする組員に場所を貸し出し、ハンドメイド作品の販売や、創作品の展示に活用してもらっています。
〈まちぐみ〉の活動が始まってから11年。組員によるブログでの発信も続いています。「これも財産ですよね」と感慨深げな山本さん。このブログなどを参考にしながら、〈まちぐみ〉をフックに地方創生をテーマとした論文を書いた人もいるとのこと。“なんか楽しそう”は意外な連鎖も生むようです。
活動を始めた当初と今で、まちに大きな変化は感じないという山本さん。それでも「継続することに意味がある」と言います。「一人ひとり得意なことがあり、それを活かして活躍したいと思っている。まちに貢献したいという気持ちが絶対にあるはず。その場をいかに作れるか」と、日々アンテナを張っています。
「『ありがとう』と言われて帰るとビールがおいしい、そんな日が続けばいいじゃないですか」
山本さんは、市民に共感してもらえる活動を続けるべく、まちが好きな人の気持ちに寄り添います。組長率いる〈まちぐみ〉が生み出す“なんか楽しそう”なことから、今後も目が離せません!