
店主である本村春介(もとむらしゅんすけ)さんは、〈ANDBOOKS MAGAZINE(アンドブックスマガジン)〉のオーナーでもあります。キャップ姿にお髭がトレードマークの本村さんは、なんと今年で51歳。若さの秘訣は「若いお客さんと話すことが多いから」なのだそう。久々に再会した学校の先生が、当時のままでびっくりするあの現象か!
〈ANDBOOKS MAGAZINE〉といい、姉妹店の〈GERONIMO〉といい、センスがダダ漏れなのですが、その空間デザインを手掛けるのも本村さん。本棚もカウンターも、什器も全て本村流でDIYしたのだそう! あの…… 一体何者なんですか?
一度きりの人生。せっかくなら好きなことをまっとうしたい
八戸市出身の父と、弘前市出身の母から生まれた本村さんは、日本ビジネススクール仙台校デザイン学科を卒業。グラフィックデザインを学び、27歳までデザイナーとして働き、28歳で鉄道会社へ転職。44歳で会社を退職し、古本とお酒を提供する〈ANDBOOKS〉を2018年の7月に開店。2024年の7月には昼からお酒も飲める古本屋さん〈GERONIMO〉をオープンさせました。

「アンドブ」の愛称でお馴染みでもある姉妹店の〈ANDBOOKS〉は〈GERONIMO〉の始動により、古書の取り扱いを雑誌中心へと変更。それにともない2024年に〈ANDBOOKS MAGAZINE〉へと改名しました。
44歳で脱サラをし、八戸の中心街に本にまつわる店を2店舗オープンさせた本村さん。退職される前に勤めていた会社では「管理職」として若手社員の教育にも携わっていたといい、会社にとって必要不可欠な存在だったに違いありません。
そんな本村さんを突き動かしたのは、いつも会社で一緒にいた亡き先輩の存在でした。
「人の寿命は、突然やってくることもあり平等じゃない。それなら自由に生きたいと思って、好きな本とお酒のお店を開きたいと思った」

長年勤めた会社を退職した、2018年3月末。〈ANDBOOKS 〉がオープンしたのは2018年の7月でした。その間たったの3ヵ月という異次元のスピード感に、本村さんって実は3人くらいいるんじゃ……と思ってしまいました(本村さんのスタミナと手際の良さ、恐るべし)。
中心街にお店を構えたのは、お酒を扱うには繁華街がベストだと思ったことが理由。2024年7月に姉妹店である〈GERONIMO〉をオープンさせたのは、よく通っていた古書店〈遊歩堂〉の蔵書を一部譲り受けたことがきっかけでした。

本棚や什器も全て、本村さんがいちからDIY。
店内にある本にテーマの偏りはなく、小説やエッセイ、郷土史、暮らし系、人文系に自己啓発系、アートや芸能系など、ジャンルはオールラウンド。その数は約1万点にも及び、そのなかから1点ものの古本を探すのは、まるで宝探しのよう。本棚のところどころに付けられたドリンクホルダーや、動かせる什器もすべて本村流。お酒やノンアルコール、コーヒーを片手に、遊び心に溢れた空間でお気に入りをゆったり見つけてみてほしいです。
“プロデューサー本村春介”氏による、GERONIMO48が発足

〈GERONIMO〉が面白いのは、店主が本村さん一人だけではないところにもあります。モノづくりが好きな本村さんは、店内に48個の本棚を製作。そのひと区画を月額でレンタルできる仕組みを生み出し、そのスペース内では誰でも自由に本やZINEを販売できるというのです。GERONIMO48は、レンタル料のみでバックマージンは一切貰わないというから驚き。売れた分、店主にまるまる売上をお渡ししています。 お店を持つのは怖い……でも表現する場を持ちたい……。そんなクリエイターたちの背中をそっと一押しする本村さん。懐の深さに溺れそう!!


「自分で値付けして、本を売る楽しさを経験してもらいたかった」と本村さん。
端から端までみっちり埋まった48ブースには、48人の店主の個性がきらり。「私も出店したい! 」と先行の方々が退居するタイミングを待つ方も多く、空き待ち状態になるほど、たちまち大人気に。取材に伺ったのは1月末でしたが、「お店を出したい、というお客さんの思いを叶えたい」と、この短期間でさらに棚を20個増設した本村さん(本村さんはやっぱり3人いるかもしれない……)。出店の大チャンス、お問い合わせはお早めにどうぞ!
GERONIMO48では某アイドルグループのような総選挙は行われませんが、手作りのポップやディスプレイ、選書などで、推しの店主が見つかるのもまた一興。大手チェーン店は不要になった本を買い取り、販売するだけなので、元の持ち主の趣味嗜好を見ることはできません。一方でGERONIMO48の貸し本棚には、屋号を取り付けられるほどこしが。


「なんでこの名前にしたんだろう?」と想像しながら、店主の興味分野を覗くことができます。そこに店主がいなくても、ご本人の人となりがなんとなく見える設計に、私は鼻血が出そうになりました。
本村さんのアイデアが詰まった空間に大興奮しながら取材を進めていると「あの……」と私に向かって声をかけてくる女性が。なんとそれは、高校のとき1年だけクラスが一緒だった同級生だったのです。しかもGERONIMO48のなかで私の推しメンでもあった店主の一人でもあり、本人の目の前で迷わず本を購入。カルチャーが集う場所には、出会いも集うのでしょうか。ミラクルオブ、ミラクルな展開に卒倒しそうな筆者でした。
ユーモア溢れるSNS、思わず虜に
そんなイケイケな本村さんのインスタの不定期日記もまた、最高に面白いからオススメ。〈GERONIMO〉のインスタでは、本村さんの日常を綴った短文の日記と、その内容にリンクした本の紹介が投稿されています。「店主の人となりが伝わるきっかけになれば」という期待を込めてスタートさせた不定期日記の配信。最近では「インスタ見ました」と言って声をかけてくれるひとが増えてきているのだとか。


クスッと笑えるものもあれば、ぽんと置かれた問いに深く考えさせられる日もあり、私はこの日記を読んで本を何冊か買いました。
特に印象的だったと話すのは、他都市からはるばる来店されたというお客さんとのエピソード。購入した古本に「サインをください」とお願いをされ「作者じゃないんだけどな……と戸惑いながらも、しっかりサインした」と照れくさそうに教えてくれました。

お店の名前になっている〈GERONIMO〉とは、「アパッチ戦争(1851-1886)」という戦争で身を投じた勇敢な戦士の名前なんだそう。オンライン販売が拡大し続ける今、「オフライン店舗でショッピング」という対照的な言葉を見かけることが増えています。「店舗へ足を運んで、実際に自分の手で商品を選ぶ」ことがなくても買い物ができてしまうこの時代に、実店舗というフィールドで挑み続ける本村さん。かつてのジェロニモのような力強さが、人々を惹きつける理由なのかもしれません。