〈八戸市美術館〉の『美しいHUG!』でアートにHUG!【番町】

2023年8月28日まで開催される〈八戸市美術館〉の『美しいHUG!』。今回は総勢6名のアーティストによる、作品に「HUG」できる作品が勢揃い。「HUG」とはどんな意味なのでしょうか? 学芸員の大澤さんに案内してもらいました。

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小田桐咲-amy-odagiri

1996年生まれ。直感と勢いで生きる牡羊座。青森県八戸市出身。5歳から武術太極拳(カンフー)を嗜んでおり、2019年の全日本チャンピオン。2026年のあおもり国スポでの優勝を目指し、20208月にUターン。『海猫ふれんず』として地元の情報も発信中。育ててくれた街や人に感謝して、その恩を返していけるように活動していきたいです。
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〈八戸市美術館〉では、2023年4月29日から新たな展覧会『美しいHUG!』がスタートしました。ゲストキュレーターであるアーツカウンシル東京/元水戸芸術館現代美術センター学芸員の森司(もり つかさ)さんを招聘。森さんがディレクションした総勢6名のアーティストの作品が展示されています。

今回は、『美しいHUG!』総括である大澤苑美さんに、展覧会を案内していただきました。

 

突如現れた石に込められた「HUG」の意味。

まず初めに案内いただいたのは、〈八戸市美術館〉の広場であるマエニワ。2022年9月から、マエニワやオクニワの至るところに、穴の空いた石が設置されました。「よもやよもや、穴があったらなんとやら」という気分になってしまいますね。

なんだかおもしろい。

実は、この石たちも『美しいHUG!』の展示のひとつだったのです!

こちらは黒川岳(くろかわ がく)さんによる彫刻作品《石を聴く》。マエニワ・オクニワ内にベージュの石が10個と、展覧会開始にあわせて設置された黒い石が1個、合計11個の石が設置されています。黒い石は八戸の石が使われているのだそう。どこにあるか探してみてくださいね。

テーマは「音を聴く彫刻作品」。穴の中に頭を入れると、音が外界から遮断され、自分の声や吐く息の音の聞こえ方が変わっていきます。本人は石の中で、至って真剣に音を感じているのに、側から見たら非常に滑稽な姿に見えてしまうのは、なんだかおもしろい(笑)。

ポイントは首も見えないくらい入れること。そして両手を広げて、石に添えること。そうするとまるで、あなたと石がHUGしているようにも見えますね。

黒川岳《石を聴く》。

ところでみなさんは、「HUG」と聞いてどんな場面を思い浮かべますか?

親しい友人と久しぶりの再会を果たしたときでしょうか。それともスポーツ選手たちが健闘を讃えあうときでしょうか。ほかにもさまざまな場面で、「HUG」の場面を目にします。ですが、どんな「HUG」の場面にも、必ず2人以上の人間が存在し、お互いを認め合っている状況を想像してしまいます。

多様性のある現代社会においては、異なることを咎めるのではなく、認め合い応援し合う、そんな「HUG」のマインドが求められているのかもしれません。

それは、美術作品にも通ずるのではないでしょうか。

少なくとも〈八戸市美術館〉では同じように思えます。〈八戸市美術館〉では、従来の「もの」としての美術作品展示を中心とするのではなく、「ひと」が活動する空間を大きくつくることで、「もの」や「こと」を生み出すことを目指しています。

『美しいHUG!』では、《石を聴く》のようなちょっと笑ってしまう作品があれば、少し考えさせられるような作品など、6名のアーティストによるさまざまな作品が展示されています。

目の前の作品をただの「もの」として捉えるのではなく、ぜひ展覧会の“当事者”として、積極的に作品に関与し、本展を楽しんでみるのはいかがでしょうか?

 

『美しいHUG!』を予習しちゃおう!

ここからは『美しいHUG!』の内容をアーティスト別に紹介していきます。もちろん、この記事だけでは伝えきれない点がたくさんありますので、この記事は参考程度にとどめていただき、ぜひ〈八戸市美術館〉にて実物を見ていただきたいです。

ちなみに観覧料は500円で、高校生以下は無料です。各種割引も適用され、なんと6月18日(日)父の日と、8月9日(水)ハグの日は無料観覧デーとして設定されています。

 

青木野枝(あおき のえ)

〈八戸市美術館〉に入館し、初めに目に入るのは、ジャイアントルームに展示されている作品。青木野枝(あおき のえ)さんによる《もどる水/八戸》です。

青木野枝《もどる水/八戸》展示風景(部分)。

青木さんは円や線の形に溶断した鉄を、展示空間いっぱいに使って、生命の循環や生命の源である水を表現してきました。
今回の作品では、円形パーツを組み合わせた山のような作品が5つ展示されていますが、上からぶら下がっているものをよく見てみると……、南部せんべいや干し菊があるではありませんか!!

一般的な美術館ではタブーとされている飲食がジャイアントルームでは可能であるという点に着目し、八戸市ならではの食べ物を用いた作品となっています。また、大きな窓で囲まれているジャイアントルームでは、天井から光が差し込み、その日の天気によって作品の見え方も異なります。

八戸の食文化とジャイアントルームの空間、そして青木さんの代名詞である鉄素材が見事に“HUG”した作品ですね。

 

きむらとしろうじんじん 

コレクションラボへ進むと、たくさんのお茶碗が展示されています。ここでは、さまざまなお茶碗と共に、じんじんさんが1995年から行ってきた「野点」の歴史を振り返ることができる空間になっています。

年表以外にも普段は見ることのできないアトリエの様子も公開。じんじんさんの「野点」にかける熱い思いが伝わってくるようです。

じんじんさんが行う「野点」とは、お茶碗と陶芸窯・お茶道具一式をリヤカーに積んで路上に立ち、移動式陶芸お抹茶屋台を実施するものです。参加者は、さまざまな形がある素焼きのお茶碗から好きなものを選んで絵付けし、その場で焼いてもらい、じんじんさんにお茶を点ててもらって、もてなしてもらいます。

ですから、じんじんさん本人が作った陶芸作品だけではなく、「野点」に参加した一般の方がつくった陶芸作品も展示されています。

あっ、大澤さんの作品だ!!

作品を焼く前と後では、着色する釉薬(ゆうやく)の色味が変わってしまいます。そこで、同じく『美しいHUG!』の総括を務めている篠原英里さんと「たくさんの色を試そう!」と試したところ、毒々しい色合いになってしまったのだそう。「試しただけだったのに、まさか展示されるとは……!」と少し恥ずかしげな様子。ぜひ今年の野点では、大澤さんと篠原さんらしい作品をつくっていただきたいです。

展覧会内では、昨年行われた『八戸野点2022』の裏側を映像で大公開。どこで「野点」を行うか検討するためのおさんぽ会の動画や、体験説明会でスタッフ向けに「野点」の準備から撤退までをじんじんさんが説明する4時間の動画が上映されています。もはや超大作映画(笑)。お時間がある方は、ぜひご覧ください!

 

川俣 正(かわまた ただし)

ブラックキューブでは、川俣さんがスクラップした事故や災害に関する画像を映像化した《Accidental photos》を上映しています。

川俣正《Accidental photos》展示風景。

いかに川俣さんが、事故や災害における日常と非日常の境界の曖昧さに着目しているのかが伝わる空間です。

ホワイトキューブに進むと、天井から吊るされた木製のドアや箱などがずらり! 5mある天井が3mくらいまで低くなっています。

川俣さんの《Under the Water 八戸》です。

川俣正《Under the Water 八戸》展示風景(部分)。

東日本大震災発生時、パリにいた川俣さんは、震災で流された建具や家具がカナダに流れ着いたという新聞記事を読んだことをきっかけに、この作品を考えたのだそう。川俣さんは、流された建具や家具をただの「もの」と思わず、そこに宿る記憶を感じたといいます。《Under the Water》という作品は、当初はフランスで行った個展などで公開されていましたが、こちらは八戸版の作品です。

津波で流され、海に浮かぶ建具や家具たちなのでしょうか。海の中から建具や家具を見上げていると思うと、その場に立ち尽くし、考え込んでしまいます。ですが、建具や家具の隙間から差し込む照明の光は、希望の光のようにも見えました。美しさがやけに切なく、悲しく見えてしまう、そんな作品です。

ちなみに、美術館のエントランスには大きな鳥の巣があったのを、みなさんは覚えていますか?

川俣正《Nest in 八戸》。

こちらも川俣さんによる作品《Nest in 八戸》のひとつ。実は〈八戸市美術館〉内にもうひとつ鳥の巣が設置されています。どこにあるのか、〈八戸市美術館〉を散歩しながら探してみてくださいね。

 

タノタイガ

ホワイトキューブの奥では、タノタイガさんの《タノニマス》を展示。《タノニマス》とは、タノタイガさんの名前と、匿名という意味の「アノニマス(Anonymous)」をかけあわせた造語であり、展示空間いっぱいにタノタイガさんの顔のお面がずらりと並んでいます。その数、3510個! 同じ顔がたくさん並んでいる空間は不気味さを禁じえません。

タノタイガ《タノニマス》展示空間。

しかし、そんな奇妙な空間の真ん中では、運営チーム「タノミマス」のサポートのもと、来場者がお面を装飾できるブースが設置されています。ペンだけではなく、布、毛糸、シールなど、いろんな素材を使って装飾することができます。作り手それぞれのインスピレーションを感じることができ、何度でも足を運びたくなる空間でした。

みんな夢中でお面制作をしています。

飾ってあるお面はかぶることもできます。

会期が進むごとに装飾されたお面が増えていくその様子は、画一化された社会から個性が光る多様性あふれる社会への変化を感じるようです。

 

井川 丹(いかわ あかし)

最後の作品は井川さんによる音楽作品《あわいの声 虹の上をとぶ船 総集編Ⅰ・Ⅱとの対話》。

井川さんが〈八戸市美術館〉を訪れたとき、ちょうど『持続するモノガタリ-語る・繋がる・育む 八戸市美術館コレクションから』が行われており、そのとき展示されていた《虹の上をとぶ船 総集編Ⅰ・Ⅱ》からインスピレーションを受けて制作した音楽です。

それぞれの版画作品にあわせて音楽を制作し、〈八戸市美術館〉の開館時間である10時から19時にあわせた、全部で9時間の音楽作品になっています。開館時間中はずっと井川さんの作品で美術館が満たされているのですね。

また、毎時の時報のように、八戸市内の小・中・高校生が歌う合唱曲も流れます。

 

〈八戸市美術館〉で「HUG!」しよう。

〈八戸市美術館〉は2022年に『グッドデザイン・ベスト100』に選ばれました。

ガイドツアーは5月20日より、全6回の開催予定です。6名の学芸員が、それぞれの視点で考える「HUG」をテーマにガイドツアーが行われます。手話付きの回(6月3日)や造園屋さんをお招きする回(7月8日)など、6回すべて内容が異なります。

詳しくは公式HPを確認し、ご自身の興味がある回に参加してみてくださいね。

ほかにも「注文の多い美術館」と称してトークプログラムが開催されたり、きむらとしろうじんじんさんの『八戸野点2023』がおこなわれるなど、盛りだくさん。

『美しいHUG!』でみなさんも〈八戸市美術館〉に、芸術に、社会に、「HUG」してみませんか?

美しいHUG!特設サイトはこちら:https://utsukushii-hug.jp/

公開日
Shop Info

八戸市美術館

住所
青森県八戸市大字番町10-4
電話番号
0178-45-8338
営業時間
10時〜19時
定休日
火曜、年末年始(12月29日〜1月1日)
公式HP
https://hachinohe-art-museum.jp/
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