


八戸の空き家問題を解決しながら、まちに賑わいを生むには? 空き家活用セミナーレポート
八戸出身者や、八戸にゆかりのある方、または一度も来たことのない方でも……。八戸にまつわるエッセイやコラムを寄稿いただく企画です。今回は、〈八戸ゲストハウス トセノイエ〉のオーナーであるスズキミノリさんの寄稿の第三弾。2025年1月18日に行われた『空き家バンク成約件数全国一位の香川県三豊市のキーマンに学ぶ!空き家活用でまちに賑わいを生む秘訣』(主催:南部藩都市開発ユニットDASUKEYO)イベントレポートをお届けいたします。

これまで46都道府県、22カ国・地域を旅した温泉好き♨️
八戸の未来を考える空き家活用セミナー

2025年1月18日、八戸市立吹上小学校にて『空き家バンク成約件数全国一位(※)の香川県三豊市のキーマンに学ぶ!空き家活用でまちに賑わいを生む秘訣』(主催:南部藩都市開発ユニットDASUKEYO)が開催されました。本イベントの目的は、八戸市の増加する空き家問題に対し、新たな活用法を学び、地域の活性化を促進すること。香川県三豊市で空き家を活用したまちづくりを実践する地域事業者が登壇し、具体的な事例や課題、解決策について語りました。
※人口10万人未満都市において

第1部:香川県三豊市の成功事例から学ぶ
最初のセッションでは、香川県三豊市から3名のゲストが登壇し、それぞれの経験をもとにした事例紹介が行われました。
登壇者の1人目は今川宗一郎氏(株式会社イマガワ取締役/株式会社ウルトラ今川代表取締役)。家業である地域に根ざしたスーパーマーケットの経営に加え、かき氷専門店や蒲鉾屋、豆腐屋などを展開し、地域経済を活性化しているキーマンです。

今川氏(左)が立ち上げた宗一郎豆富。当時三豊市でフリーランスとして新規事業開発に取り組んでいたDASUKEYO会員の類家真澄さん(右)も立ち上げに参画しました。
今川氏は三豊市仁尾町の出身。家業の後継者として築いた地域の方々とのつながりを味方につけ、自身で起業したウルトラ今川にて多様な事業を立ち上げています。ご自身が複数の空き家を活用した事業者側の立場でありながら、地域での信頼を担保に、持ち主に直接交渉して魅力的な空き家を必要な人のために借りる役割も担っています。事業を通じて地元の方々、そして移住者、起業を希望する若者などから頼られる、地域の兄のような存在であり、全国の地域プレイヤーに注目されている方です。
「今後は『地域の外交官』という役割が大事になってきます」と今川氏。移住先や投資先、企業の進出先として、日本の地方はさまざまな方から注目を浴びています。彼らに新たな価値を提供できるチャンスである一方、地元との価値観やコミュニケーションに齟齬が生まれることも。今川氏は「地域の外交官」として、地元と外からの協力者の間に入り、今後もプロジェクトを進めていくそうです。今後の三豊市のさらなる発展が楽しみですね。

自身の事業について講演する今川氏。
登壇者の2人目は、暮らしの交通株式会社 代表取締役社長の田島颯氏。なんと今川氏と、もう1人の登壇者である島田氏に便乗し、一緒に八戸にいらっしゃって飛び入りで講演してくださいました! 素晴らしいフットワークの軽さです。
田島氏は、移動手段の確保が地域活性化の鍵とし、エリア定額乗り放題の乗合タクシー「mobi」を展開。高齢者や若者の移動の自由を広げることで、まちの賑わいづくりに貢献しています。自身が学生時代に起業した教育関係の仕事で三豊市に来る機会があり、地域の移動手段の不足が高齢者や学生の日常生活に大きな影響を与えている現状を知り、これを解決するために三豊市への移住を決意したそうです。起業の際に、地域の交通事業者からの協力を得ただけでなく、地域での交通の重要さを一緒に考えられる地元起業13社からの出資を受けたことも非常に興味深かったです。田島氏も20代という若さで起業していますが、同じように資金や人脈もない若手が起業する際に地元企業が共同出資するという流れは三豊ではよく起こっていることだそうです。

オンデマンド交通サービスから派生し、シニア世代が移動しやすい環境づくりとしてシニアサポート事業「まごころサポート」を行う田島氏(左から2番目)。今川氏(左)と島田氏(右)、まごころサポートみとよ・スーパー今川店 店長の菅井麻人氏(左から3番目)の協力も得ながら展開しています。
「地域で新たなチャレンジが生まれるためには、余白・役割・居場所の3つが必要です」と田島氏は言います。熱量をもった若者が、起業家や移住者の居場所(コミュニティ)を形づくり、地元企業とのつながりや信頼を持った先輩経営者が、若手に事業への関わりを作る。そうすることで、新たに街に関わりたい人が増えていきます。八戸市においても地域連携していくことが重要だと感じました。
3人目の登壇者は島田真吾氏(株式会社八百万 代表取締役/くらしの不動産)。空き家を利活用し、移住促進や地域資源を活かした新たな価値創出を実現しています。
もともとは三豊市の株式会社喜田建材にて不動産売買の仲介に従事し、特に空き家を活用したプロジェクトに注力していました。観音寺市の「伊吹いりこセンター」のリノベーションなど、地域資源を活かした取り組みを行ってきました。
また、現在「株主人口」として市外からの出資を募り注目を集めている〈URASHIMA VILLAGE〉の立ち上げにも携わっていました。島田氏は、このプロジェクトで土地探しから関与し、地域を自ら歩き回って適切な土地を見つけ出しました。地域の空き家や土地の情報を地図アプリ上で独自にデータ化し、売り手と買い手をつなぐ活動を行ってきました。その活躍ぶりを見て、人々からは「空き家王子」と呼ばれているそう。

空き家王子・島田氏が作った空き家のマップにはものすごい数のピンが立てられている。ご自身の足で周って調査したその努力に脱帽です。
ただ空いているから貸すのではなく、その物件に、地域に価値を生み出せる人に空き家を提供しながら、周辺住民の暮らしの豊かさの向上に貢献している島田氏。どんなに古くて傷んでいる空き家でも、島田氏とその仲間の手によってみるみる生まれ変わっていくことに感動しました。
三豊市の先進的な取り組みは、参加者の関心を引いていました!
第2部:八戸市の未来を考える
続く第2部では、青森市でまちづくりに取り組む中村公一 氏(株式会社クロックアップ代表取締役社長)がファシリテーションし、パネルディスカッションを実施。三豊市からの3名と、八戸圏域で空き家活用に取り組む上野莉歩氏(cafe & HASH BA わたしの素ペース)、わたくし鈴木美朝(八戸ゲストハウス トセノイエ/喫茶へバナオーナー)も登壇し、第1部の内容をいかに八戸圏域に落とし込めるかを議論しました。

第2部の様子。
セッションのなかで登壇者は参加者と、「空き家は負の遺産ではなく、新たな価値をうむ地域の資産になり得る」という考えを共有しました。持ち主が地元にいない、または所有者がわからない物件も多いなかで、島田氏は「法務局で登記簿謄本を調べ、所有者へ手紙を書くこともある」と述べました。空き家活用のためにはそういった泥臭い努力も大事なのだと痛感しました。
また、「欲しい暮らしを自分たちで作る」という三豊市の3名の考え方についても議論しました。参加者からは「リノベーションの費用は実際にどうやって集めるのか?」など、具体的な質問が挙げられました。三豊市のゲストより、地元企業による共同出資の事例が挙げられたほか、上野氏からは融資とクラウドファンディングを併用した資金調達の経験をお話しいただきました。「どうやってプロジェクトをする仲間を作るのか」という質問には、「自分のビジョンを周りに話し、常に行動し続けていると自然と共感者が増えていく」と、私自身の経験を語りました。
何足もの草鞋を履いている今川氏には「実際のところ各事業単体は黒字にできているのか」との鋭い質問も。うまくいっているもの、いっていないもの両方あり、タイミングをみて撤退する事業もあるそうです。事業を止めるというのはネガティブなイメージもつきものですが、それ以上に仕掛けている事業の数が多いので、その勢いや行動力が大事なのだと感じました。
イベント終了後は、登壇者や参加者同士での名刺交換や歓談が積極的に行われました。どんな新しいプロジェクトをするにも、未来の理想像を共有したり、方法をディスカッションすることは大事だと思います。今回のセミナーはその第一歩を踏み出すためのつながりづくりにとても有効だったのではないかと思います!
八戸市民が主体となり、欲しいくらしを自らデザインするまちづくりへーー。
読者のみなさんも空き家活用に興味があれば、ぜひ地域のプロジェクトやイベントに参加し、自分たちのまちづくりに関わる一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?