〈八戸市美術館〉で開催中! 『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』の3つの見どころ。【八戸市美術館】

2025年8月31日(日)まで開催中の『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』。ゲームやアニメの世界であるポケモンと、現実世界のアーティストが作り出す工芸。その両者が融合したとき、いったいどんな“わざ”となるのか? 本記事では、筆者おすすめの3つの見どころと共に、本展の魅力をお伝えします!

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小田桐咲-amy-odagiri

1996年生まれ。直感と勢いで生きる牡羊座。青森県八戸市出身。5歳から武術太極拳(カンフー)を嗜んでおり、2019年の全日本チャンピオン。2026年のあおもり国スポでの優勝を目指し、20208月にUターン。『海猫ふれんず』として地元の情報も発信中。育ててくれた街や人に感謝して、その恩を返していけるように活動していきたいです。
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2025年6月28日(土)〜8月31日(日)に開催している『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』。2023年に石川県金沢市の〈国立工芸館〉で開催されてから国内外を巡回し、ついに今回〈八戸市美術館〉へやってきました! なんと、北海道・東北エリアでは初開催とのこと! 誘致してくれてありがとう、〈八戸市美術館〉!!

オープニングセレモニーでは、日本の伝統柄「工字繋ぎ」の着物を着せてもらったピカチュウも来てくれたそう。会いたかったー!

『ポケットモンスター』、縮めて“ポケモン”。今や誰もが知っていると言っても過言ではない同作品は、1996年にゲームボーイソフト『ポケットモンスター 赤・緑』が発売され、翌年にはテレビアニメの放映がスタート。さらに1998年には映画第1作が公開されるなど、ポケモンシリーズは怒涛の勢いで国民的コンテンツへと成長していきました。
『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』では、日本の工芸を代表する20名のアーティストが、ポケモンをモチーフに、多種多様な素材と技法を用いて作品を制作しています。

今回私は、7月23日(水)から始まった後期展示を見に行きました! 前期とは一部展示内容が異なっており、2回目でも楽しめる内容になっています。チケットを購入しに受付へ行くと、さっそくミミッキュのステッカーをもらいました。こちらは平日の観覧限定でもらえる特典なのだそう。キラキラしていて可愛い!

ちなみに、土・日・祝は日時指定チケットの購入が必要なのだそう。混雑状況によっては、ふらりと行っても希望の時間に展示を見ることができない可能性もありますので、事前にチケットを購入してから行くことをおすすめします!

本記事では、筆者が感じた本展の見どころを3つに絞ってお届けしたいと思います。

その1 
これはゲームやアニメのシーン!?
まさにここはポケモンの世界!

受付を通り過ぎ、最初に出合うのは新實広記(にいみ ひろき)さんのインスタレーション作品《Vessel -TSURARA-》。インスタレーション作品とは、空間全体を使って表現したアートのこと。お客さんたちが展示室に入って、歩いたり感じたりすることで完成するのが特徴の作品です。

新實広記 《Vessel -TSURARA-》  2022年 個人蔵

こちらの作品は、ポケモンが繰り出すわざ「つららおとし」をモチーフに制作されました。先が尖っていて危険なのに、透明感のある立体は、まさにゲーム内に登場するつららそのもの! こんな大きなつららが落ちてきたらひとたまりもありません。幾何形体を不規則にすることで氷を表現した8つのピースによって、光の空間が広がります。

〈八戸市美術館〉の白い床や背景もあいまって、夏なのにどこか涼しげな空間になっているのも印象的でした。そばにいるだけで涼しく感じることができそうですね。

須藤玲子 《ピカチュウの森》 2023年 個人蔵

こちらは須藤玲子(すどうれいこ)さんによる《ピカチュウの森》。約900本の“ピカチュウレース”が使用されたこちらの作品は、アニメ『ポケットモンスター』第39話『ピカチュウのもり』から着想を得て制作されました。

レースをよ〜く見ると……。

ピ、ピカチュウ!!

花だけでなく、シダやツル草、ゼンマイやキノコなどの植物と共に、たくさんのピカチュウが楽しそうに過ごしています。「ブラックキューブ」の真っ黒な空間は、まるで本当に森に迷い込んでしまったような薄暗さを演出し、キラキラと輝くピカチュウレースたちはまさに“美しい森”。サトシたちは、こんな美しい森であのエピソードを体験したのでしょうか。

ちなみにこの中には1本だけ、ピカチュウのみが連なったレースがあるのだとか! それは川に落ちたピカチュウを、仲間のピカチュウたちが助けるあのシーンが再現されたデザイン。そのなかに1匹だけ色違いのピカチュウがいるそうです。お時間がある方は、仲間を助けるピカチュウを探してみてください!

こんなふうにポケモンの世界を体感することができるのが、ひとつ目の見どころです!

その2 
えっ! ここにポケモンが!?
作品をじっくり見つめてみよう!

2つ目の見どころは、作品をじっと見つめて「ポケモン探し」ができるところです! 間違い探しをするように作品をじっと見つめていると……。見つかるのです、ポケモンたちが!

池田晃将 《電線光環中次》 2022年 個人蔵

こちらは池田晃将(いけだ てるまさ)さんの《電線光環中次》。螺鈿(らでん)という技法が使われ、貝殻の真珠層を加工し、漆で接着する装飾方法。見る角度を変えると見え方が変わる不思議な箱です。こちらの作品に描かれたシルエットは……ゼニガメ!?

ポケモンの世界には「モンスターボール」と呼ばれるポケモンを入れて持ち歩くことができるどうぐがあります。モンスターボールがあれば、ポケモンを掴まえることができます。さらに、『ポケットモンスター』シリーズのゲームでは掴まえたポケモンを交換することができます。

本作品のザラザラとしたデザインは、まるでノイズの多いデータのなかにポケモンが存在しているかのよう。『ポケットモンスター』シリーズのゲームをプレイしたことがある人にとっては、「ポケモン交換」のワンシーンを連想してしまうのではないでしょうか。

城間栄市 《琉球紅入藍型訪問着「サンダーリーフの秘密基地」》2024年 個人蔵

こちらの作品は、城間栄市(しろま えいいち)さんの《琉球紅入藍型訪問着「サンダーリーフの秘密基地」》。紅型の古典柄にある「稲妻」とサンゴ礁(リーフ)の広がる沖縄の海をテーマに制作したそうですが……。

城間栄市 《琉球紅入藍型訪問着「サンダーリーフの秘密基地」》2024年 個人蔵(部分)

わ〜〜! 海辺のポケモンたちが泳いでいる!!

色鮮やかな紅型で描かれているのは城間さんが暮らす沖縄の珊瑚礁とそこに棲んでいるかも知れないポケモン。まるでスキューバダイビングを楽しむような気持ちになれます。背景には、子の成長を願う吉祥文様として紅型に繰り返し描かれてきた「稲妻」が、城間さん独自の大胆な構図と濃淡2色の藍で染め抜かれいて素敵です。

葉山有樹 《森羅万象ポケモン壷》 2022年 個人蔵

こちらの作品は、葉山有樹(はやま ゆうき)さんの《森羅万象ポケモン壷》。一見ただの美しい壷ですが、よ〜く見ると……。

葉山有樹 《森羅万象ポケモン壷》 2022年 個人蔵(部分)

ややっ! 私の推しポケモン、アチャモを発見!! 嬉しい!!

本作品では多くのポケモンと無数の植物が、更紗で知られる「アラス・アサラン文様」として描かれています。「アラス・アサラン文様」とは、森で育まれた動植物や幾何学模様が、多彩な模様となって描かれているデザインのこと。どこか異国情緒を感じる雰囲気が魅力的ですが、たくさんのポケモンたちがひとつの壷に描かれて完全に調和している様子は、生命の源を表しているようです。

ちなみに描かれているポケモンはなんと500匹以上! あなたは何匹見つけることができましたか?

その3 
まるで本物!
生きものとしてのポケモンがそこに。

最後の見どころは、本展の最後のエリアに並ぶリアルなポケモンたちの姿です。

今井完眞 《キングラー》 2022年 個人蔵

こちらは今井完眞(いまい さだまさ)さんの《キングラー》。甲羅のぶつぶつ感、視線の鋭さは今にも動き出しそうなほどリアル! 浮き玉に乗っている姿は、我々の世界でいうカニにそっくりです。海に帰してあげたい。

今井完眞 《アーボック》 2022年 個人蔵

今井さんの《アーボック》は、先ほどの《キングラー》とは全く異なり、まるで本物の蛇皮を使用しているような光沢感がありました。鱗を表現するための無数の小さな点は、金でひとつひとつ打ったそうで、その匠の技に感心せざるを得ません。

また、アーボックの腹部には特徴的な模様がありますが、怖い顔に見えるこの模様で敵を怯えさせる効果があります。その効果の通り迫力満点! 本物は体長が3.5mもあるので、工芸品で良かったと安心してしまいます。

桝本佳子 《タマゴ/壷》 2022年 個人蔵

え!? 生まれる! 生まれる!!!

……と慌ててしまったのは、桝本佳子(ますもと けいこ)さんの《タマゴ/壷》。

ポケモンのタマゴは孵るときに発光するのですが、まさに生まれてくる瞬間が表現されています。ひび割れた奥から新たな生命の誕生を期待してしまうほどリアル!

吉田泰一郎(左から)《イーブイ》、《サンダース》、《ブースター》、《シャワーズ》 2022-2023年 個人蔵

そして、本展の出口付近で待ち構えているのは、イーブイフレンズをモチーフにした作品。左端から順番に、吉田泰一郎(よしだ たいいちろう)さんの《イーブイ》、《サンダース》、《ブースター》、《シャワーズ》です。

こちらの作品たちは、実際の体長を参考に制作したそうです。公式のポケモン図鑑によると、イーブイは体長0.3m、ほかの3匹は0.8m〜1.0mの大きさ。進化したらこんなに大きくなるのか! お家で暮らすのが大変になってしまうなぁと謎の懸念を抱いてしまいます。

大きさもさることながら、私が驚いたのは、何といっても細部の作り込みです!

吉田泰一郎 《シャワーズ》 2023年 個人蔵(部分)

おててが! 可愛い!!

アニメやゲームの映像だと黒い線でしか表現されない指が、立体的にもっちりと表現されています。爪がないから、ゲームでもこうげき技「ひっかく」を覚えないんですね。

吉田泰一郎 《サンダース》 2022年 個人蔵(部分)

《サンダース》の牙もリアル! 噛まれたら手術が必要なレベルで痛そう!!

ほかにも、よく見ると下のざらつき具合や七宝焼で制作したという大きな瞳は美しく、本当に現実世界に飛び出してきたかのような気持ちになります。迫力満点のポケモンたちをぜひ会場で見ていただきたいです!

ちなみに、本展では作品の制作過程も楽しめます。下書きや設計図、粘土でつくられた模型などをみていると、参加されたアーティストたちがどのようにポケモンや作品と向き合ってきたのかが感じられ、感謝と尊敬の念が浮かんできます。

ゲームと工芸の融合。それは共生社会への手がかり?

私は本展のテーマのひとつ「くらしー愛でる!」をとても気に入っています。工芸は私たちの“くらし”をより良く整えてくれるだけでなく、美しく、ときに元気を与えてくれるもの。その機能や装飾に、ポケモンが融合しています。

桝本佳子 (左から)《ヒトカゲ/信楽壷》 《リザードン/信楽壷》 2022年 個人蔵

壷と融合したり。

植葉香澄 《火炎文ヒバニー》 2023年 個人蔵

伝統と現代をミックスした美しい文様をその身に纏ってみたり。

水橋さおり 《友禅帯「煌めき」》 2024年 個人蔵(部分)

着物のなかではしゃいでみたり。

私たちの日常にも溶け込みそうな工芸作品群ですが、少し違うのはそこにポケモンがいること。本来いるはずのないポケモンがいることで、特別な魅力を感じます。

「ポケットモンスター、縮めてポケモン。この星の不思議な不思議な生き物。」

アニメでおなじみのこのセリフを、耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。空に、海に、森に、街に、ポケモンたちは世界のあらゆる場所に生息しています。

子どものころからポケモンに親しんできた私には、ずっとひとつの疑問がありました。それは「どうしてポケモンの世界では人間とポケモンがこんなにもうまく共生できているのだろう」ということです。

池本一三 《冒険のはじまり》 2022年 個人蔵

お話のなかでは、ロケット団のようにポケモンを乱獲する悪党がいれば、野生ポケモンの迷惑行為の被害に遭う人もいます。ですが、基本的にはそれぞれトレーナーにパートナーとなるポケモンがいて、育て合い、支え合って生きている。そんな世界に、私は何度も羨ましさを感じてきました。

ポケモンの世界には「モンスターボール」という、人間とポケモンをつかまえる道具がありますが、私たちの生きる現実世界では、当然ながらそんな便利な道具はありません。

現実の共生はずっと難しいものです。時には動物が人間を傷つけることもあれば、私たちが無意識のうちに動物を傷つけていることもあります。それでも、ポケモンの世界で描かれている共生の姿は、私たちが目指したい理想のひとつとして、心に残り続けているのだと思います。

林茂樹 《月光 Pokémon Edition》 2022年 個人蔵(部分)

今回の展示では、アーティストたちの感性とポケモンの魅力が融合した作品たちが、まさにその共生のかたちを表現していました。工芸という手法で表現されたポケモンたちは、「人とポケモンが共に生きるとはどういうことか」を私たちに伝えてくれているように感じます。

そして思ったのです。これは動物と人間の共生だけの話ではなく、人と人との共生の話でもあるのだと。現代の社会は多様性にあふれていて、それゆえに、文化や背景、考え方の違う人々とも手を取り合って行く必要があります。片方だけが努力するのではなく、お互いに理解しようと歩み寄ることが大切です。

しかしながら、ポケモンはそれをやってのけている! ポケモンを通じて、言葉や文化、世代を越えて人がつながるという事実が、それを証明しています。展示に参加していたアーティストのひとり、林茂樹さんの言葉を借りるなら、ポケモンは“世界共通言語”になり得る存在なのかもしれません。

林茂樹 《月光 Pokémon Edition》 2022年 個人蔵

フィクションだからこそ描ける理想。でも、その理想があるからこそ、私たちは現実のなかで、どう共に生きるかを考えることができる。ポケモンという存在は、今も昔も、そしてこれからも、私たちにそうした問いを投げかけ続けてくれるような気がします。

展示を記念したグッズ販売もあります! お買い逃しなく!

展示を見終わった後は必ずグッズ販売ブースに行きましょう! 本展の公式図録や記念Tシャツ、須藤さんの《ピカチュウの森》で登場したピカチュウレースを使用したアクセサリーなど、盛りだくさんです。

グッズ販売ブースには観覧チケットを購入した人のみが入場できます。観覧チケットは再入場不可となっていますので、そのままスルーしてしまうと購入ができなくなってしまいます。お気をつけください!

筆者のおすすめは、こちらの本展開催を記念したぬいぐるみ(税込2,640円)。目があった途端動けなくなってしまうほどの可愛さに、“メロメロ”です。

全国各地に設置されているポケモン柄のマンホール、通称「ポケふた」のパネルも展示されています。八戸市と階上町のポケふた設置場所への案内もありますので、展示観覧後は海辺でドライブするのもいいかもしれません!

いつもチケットを購入する総合案内とは、受付が異なります。

『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』は8月31日(日)まで! ぜひポケモンと工芸の世界へ、足を運んでみてくださいね。

 

『ポケモン×工芸展―美とわざの大発見―』
会期:2025年6月28日(土)〜8月31日(日)
会場:八戸市美術館
観覧料:一般1,300円、大学生・高校生800円、小・中学生600円、未就学児無料
※土、日、祝日、8月12日(火)~15日(金)は、未就学児含め日時指定チケットが必要です。

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公開日
Shop Info

八戸市美術館

住所
青森県八戸市大字番町10-4
電話番号
0178-45-8338
営業時間
10時〜19時
定休日
火曜、年末年始(12月29日〜1月1日)
公式HP
https://hachinohe-art-museum.jp/
公式SNS
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