種は風に運ばれ、時代を超える。〈八戸市美術館〉で『風のなかを飛ぶ種子 青森の教育版画』を開催中。
2024年10月12日(土)~2025年1月13日(月・祝)まで〈八戸市美術館〉で開催されている『風のなかを飛ぶ種子 青森の教育版画』。本記事では、教育版画の起源やタイトルの種子の意味を紐解きながら、本展の紹介をしていきます。戦後の人々の祈りが、現代の私たちのもとまで届いていました。
2024年4月20日(土)〜2024年6月24日(月)まで、〈八戸市美術館〉では二度目のコレクション展となる『展示室の冒険』を開催中。本展では、前回のコレクション展のときには展示されなかった作品たちが並んでいるだけではなく、前回とまったく異なるコンセプトで作品を楽しむことができます。あなたも、〈八戸市美術館〉の冒険にでかけてみませんか?
2024年4月20日(土)〜6月24日(月)まで、〈八戸市美術館〉で開催されている『展示室の冒険』。〈八戸市美術館〉に収蔵されている作品を楽しむことができます。
『展示室の冒険』は、その名の通り、冒険を疑似体験できるような内容になっており、私のような普段は美術館に足を運ばない人にも非常に親しみ深い演出がたくさん施されています。
冒険は、“展示室の管理人”から届く一通の招待状から始まります。この冒険の果てに、私はいったい何を見つけることができるのでしょうか。
本展は、〈八戸市美術館〉のメインエントランスから入って左手奥にある「ブラックキューブ」と呼ばれる部屋から入場します。壁も天井も一面真っ黒なブラックキューブ内で、最初に、本展の導入となる映像を楽しみます。その一部はYouTubeで無料公開中!
どうですか? ゲームやアニメのアバンタイトルを彷彿とさせ、展示を見る前からワクワクしませんか? まるで、本当にダンジョンに迷い込んでしまったかのようです。
さぁ、映像が見終わったら、次の部屋へと進みましょう。ちなみにブラックキューブを出ると「冒険の地図」を入手できます。迷子にならないためにも、忘れずにゲットしましょう。
えみ は ぼうけんのちず を てにいれた ! (テテテテテンッ♩)
ブラックキューブを出た我々を待ち受けているのは「奇妙な廊下」と呼ばれる展示室。奥まで長く続く廊下には、さまざまな作品が展示されていますが、一体どこが“奇妙”なのでしょうか。
作品自体をじっと見つめていても、変わったところは特になさそうですが……。困ったときは、心の名探偵に聞いてみるとしましょう。
「あれれ〜おかしいな〜? 美術館なのに、どうして展示されている作品の高さがバラバラなの〜? 大きさだってまちまちだし……。それに見て! キャプションのテンプレートや場所も統一されてなくて、右に置かれていたり、左に置かれていたり、なんか変だよ!」
ほ、本当だ! 一般的な美術館の作品展では、統一感を持って展示されているのに、この廊下ではその整然さがまるでない!
それも奇妙な廊下の狙いのひとつ。同じ作者でも、白黒の作品とカラーの作品では印象が変わるように、展示方法に“不自然さ”を取り入れることで、鑑賞者にとっての感じ方が変わることを暗示しています。
また、奇妙な廊下のなかでは、作者の異なる作品が入り混じって展示されているパートも。画角や作品のタッチなどをじっくり見ながら、どの作品がどの作者のものなのか、あてっこしながら見るのも面白いですね。
奇妙な廊下には、壁面に展示されている作品の他に、奇妙なものがもうひとつ。
なつめ「どうしたの? えみちゃん」
筆者「こんな長い廊下のど真ん中に、何も入っていないように見える展示ケース……、妙だな……」
この展示ケースにはいったい何が入っているのか? 気になる方はぜひ見に行ってみてください。衝撃の事実が明らかに!
廊下の奇妙さを堪能したら、赤いカーテンの先へ向かいましょう。
冒険の途中ですが、みなさんに聞きたいことがあります。みなさんは、“運命の出会い”をしたことがありますか? 運命の出会いをしたら、自分はどうなってしまうと思いますか?
きっと雷に撃たれたような衝撃を受け、来る日も来る日もその人のことを考えてしまうことでしょう。理屈など抜きに心が動かされ、その人のことを思い続けてしまうでしょう。
赤いカーテンの向こう側には、まさに、そんな運命の出会いをしたふたりの、心の躍動を感じることができる作品が展示されています。
展示されている作品は、岩舘千松の《たなばた》。
七夕伝説で登場するのは、日本では織姫として親しまれている織女(しょくじょ)と彦星として親しまれている牽牛(けんぎゅう)。運命的な出会いを果たした2人は、お互いを愛しすぎてしまうがゆえに仕事を放棄してしまいます。そのせいで神様の怒りをかってしまい、天の川の対岸に引き離されてしまうものの、真面目に仕事をすることを条件に、年に一度、7月7日の夜にだけ会うことができるようになったのです。
大きな部屋にたったひとつの作品。じっくりと向き合うには十分すぎる空間です。照明も専門スタッフが考え抜いて設定しており、2人の劇的な出会いを演出しています。
今年の七夕は晴れるといいな。
《たなばた》の余韻に浸りながら、そんな思いで次のダンジョンへと足を運びます。
次に現れたのは、怪しげな研究所です。
研究所には、壁面に大小さまざまな作品が展示されているだけでなく、真ん中のテーブルにアイテムが置いてありました。
置いてあるのは、虫眼鏡、配色カード、地図帳、作品集、鉛筆、色鉛筆と画用紙など。アイテムを使用して調べものをしながら観るもよし、スケッチをしながら観るもよし。自分の思うがままに展示されている作品を“研究”できるのは嬉しいですね!
しかも、座布団や踏み台の用意まであります!
遠くから見るとシュール。
見ているのは、宇山博明の《是川作品群 301》。目の前に見える色は赤に見えますが、本当はこれがどんな赤なのか、手元に配色カードを広げて見てみます。まさに「白って200色あんねん」 を体感するにはもってこい。
こちらは戸狩公久の《最北の港》。地図帳を見ながら、いったいどこの港なのか、想像を膨らませていました。最北ってどこなんだろう? 本州の最北? 日本の最北? はたまた世界の最北? それってどこ!?
テーブルの上に展示されている彫刻作品は、手袋を装着すれば、なんと実際に触ることもできるのです! こちらの彫刻作品は吉田三郎の《緑陰》。猿の手はどんなふうに彫られているのか、虫眼鏡を使用してじっくり観察します。ぼんやり遠くから作品を眺めるのも楽しいですが、こうして近くで見ることで新たな角度の発見がありますね。あ、これ、足だった。
「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトに掲げている〈八戸市美術館〉らしい展示室です。受動的に作品を鑑賞するのではなく、能動的に作品に関わっていくことができるのは、全国の美術館を探しても珍しいのではないかと思います。
思う存分作品を調べ上げ、研究所をあとにすると、辺りは薄暗くなっていました。
最後の部屋となるここは「森のダンジョン」。まるで本当に鬱蒼とした森に迷い込んでしまったかのような、薄暗い空間です。
バラバラに設置された壁に、謎のアルファベットが刻まれ、作品だけがこちらを向いて展示されています。近くには作品のキャプションや解説はありません。作品の情報はなんと、壁の裏側に記載されているのです。
裏側から見ると驚きの情報量! すべてを読み解きながら歩くのもまた面白いですね。
さらに、作品の足元に注目してみてください。
んん? これは……。
せ、選択肢……!? そうか、作品の上に刻まれているアルファベットは、このためにあったのか!
Aから順番に作品を楽しむだけでなく、その日の気分で選択肢の通りに作品を回るのも面白そうです。自分で選ぶとなおのこと、次はどんな作品が待っているのだろうかとワクワクしませんか?
作品だけを楽しみたいのなら研究所側のみを見て歩けばいいですし、情報が気になるのであれば裏面も見ながら進めばいい。反対に、裏面だけを見ながら、掲げられているキャッチフレーズを頼りに、気になる作品を見にいくのもいいでしょう。選択肢の通りに歩いてもよいのです。なぜならば、これはあなただけの冒険なのだから。
ですが、どんな冒険の道を歩んでも、最後に必ず辿り着く作品があります。それがどんな作品なのか、それはあなた自身の力で見つけてみてください。
このダンジョンを抜けたいのなら、くれぐれも、決断を“ためらう”ことのないように、お気をつけくださいね。
森のダンジョンでの冒険を終え、光が差す方へ進むと、出口へと辿りつきました! やったー、出口だ!!
一般的な展覧会と異なり、自分で考えたり、調べたり、決断したりと、落ち着くことのない企画展でした。ですが、そもそも今回の企画展の名前は『展示室の冒険』。我々は作品鑑賞ではなく、冒険をしにきていたのだと思うと、非常に趣深い展示だったと感じます。それは実際の展示にとどまりません。
本展の執筆をする際、非常にお世話になったこちらの図録も、ただ作品が並べられているのではなく、本展の会場の雰囲気そのままのつくりになっています。『展示室の冒険』が終わっても、この図録があればいつでもこの展示を振り返ることができるようです。
展示室を出て私たちを待ち受けるのは、人生という名の冒険です。ときには、姿の見えない展示室の管理人のように、掻き回す人や助けてくれる人・事象との邂逅もあるでしょう。だからこそ私たちは迷い、考え、出会い、選ぶのです。ためらうことのない勇気を持って、前に進むのです。
『展示室の冒険』を終えた私たちは、新たな世界の進み方をひとつ体感したように思います。これからも止まることのない自分自身の冒険を、ためらうことなく歩んでいきたいものですね。
2024年10月12日(土)~2025年1月13日(月・祝)まで〈八戸市美術館〉で開催されている『風のなかを飛ぶ種子 青森の教育版画』。本記事では、教育版画の起源やタイトルの種子の意味を紐解きながら、本展の紹介をしていきます。戦後の人々の祈りが、現代の私たちのもとまで届いていました。
〈八戸市美術館〉では、2024年7月6日(土)〜9月1日(日)の期間中、『tupera tupera のかおてん.』が開催されています。「かお」をテーマに掲げた本展は、見て、探して、貼って、体験して楽しむ企画展。ドキドキ、ワクワク、ニヤニヤが止まらない『かおてん.』を見たあとのあなたは、ありふれた日常のワンシーンがすべて顔に見えてしまうかも!
2024年4月20日(土)〜2024年6月24日(月)まで、〈八戸市美術館〉では二度目のコレクション展となる『展示室の冒険』を開催中。本展では、前回のコレクション展のときには展示されなかった作品たちが並んでいるだけではなく、前回とまったく異なるコンセプトで作品を楽しむことができます。あなたも、〈八戸市美術館〉の冒険にでかけてみませんか?