湊にしかないお菓子を。〈港むら福〉の“湊魂”、ここにあり!
八戸の浜通りの地域名を指す「おさしみ」の「み」といえば「湊」の「み」。湊地区には古くから伝わる“湊魂”なる合言葉が存在しています。まさにその「湊魂」の名のついたお菓子を販売しているのが〈港むら福〉。中学3年間を湊中学校で過ごし、生徒会長までつとめあげた筆者が、〈港むら福〉の“湊魂”を感じるエピソードを取材してきました!
八戸の浜通りの地域名を指す「おさしみ」の「み」といえば「湊」の「み」。湊地区には古くから伝わる“湊魂”なる合言葉が存在しています。まさにその「湊魂」の名のついたお菓子を販売しているのが〈港むら福〉。中学3年間を湊中学校で過ごし、生徒会長までつとめあげた筆者が、〈港むら福〉の“湊魂”を感じるエピソードを取材してきました!
長年地域から愛され、おいしい和菓子を提供し続けている〈港むら福〉。JR八戸線 陸奥湊駅前の坂をくだり、右手に曲がって徒歩3分ほどのところに店をかまえています。八戸市民なら誰でも知っている同店ですが、それもそのはず、創業はなんと1924(大正13)年。
創業者は舩場修一さん。現在の経営者の舩場修(おさむ)さんの祖父にあたります。修一さんは中心街の菓子店〈村福本店〉で和菓子の修行を積み、現在の湊町へやってきました。同店から暖簾分けしてもらったため、店舗名が〈港むら福〉になったのだそう。その後、修さんの父にあたる一廣(かずひろ)さんが2代目を継ぎますが、当時は終戦直後で、洋菓子の流行が始まった時期。一廣さんは洋菓子なども取り入れながら、和洋菓子屋さんとして〈港むら福〉を発展させていきました。
初代は和菓子、2代目は和洋菓子、そして3代目の修さんは和菓子と、変遷を経てきた〈港むら福〉。修さんはなぜ、2代目の和洋菓子から和菓子に戻したのでしょうか?
修さんは3代目を継ぐ前、東京の専門学校を卒業し、1年ほど働いたあと青森市の〈松栄堂〉にて修行を積んで〈港むら福〉に戻ってきました。当時の八戸市の洋菓子は、東北地方でも注目されるほどレベルが高く、洋菓子激戦区になっていたといいます。そこで、洋菓子に挑むよりも、〈村福本店〉から初代、2代目と受け継がれた技術を受け継ぎ、初心に帰って和菓子を極めることに決めました。
2代目・一廣さんの時代から「八戸にしかないお菓子」を提供し始めた〈港むら福〉。その頃から、普通のお菓子だけでなく「〈港むら福〉に行けば、変わったお菓子を楽しめる!」「ここにしかないものがある!」といったものに、お客さんの期待が変化していったといいます。
そのイメージを引き継ごうと考えた修さんですが、八戸全体にしてしまうと範囲が広すぎることを懸念していました。また、一時期と比べて湊の景気が右肩下がりになってきたこともあり、湊の力になりたい! という熱い思いのもと、“湊にちなんだお菓子”にテーマを絞りました。
最初に生まれた“湊にちなんだお菓子”は、こちら。
「湊魂」162円。
さつまいもあんと粒あんがパイ生地で包まれている、さつまいもパイ。上に乗っているごま塩の塩味がピリッときいており、大人も子どもも、甘党もそうじゃない人も楽しめる王道のお菓子です。
湊にちなんだものをつくる際、最初に思いついたのが“湊魂”だったという修さん。
湊魂とは、湊地区に伝わる合言葉のようなもの。八戸市立湊小学校や八戸市立湊中学校に通う子どもたちは、学校生活のなかで“湊魂”が育まれていきます。
そこで、当時の湊小学校の校長に“湊魂”をお菓子の名前として使っていいか、直接確認しに行った修さん。すると当時の校長からは「“湊魂”は地域のものだから、好きなように使っていいと思う。ただし、パッケージと試作品をぜひ持ってきてもらいたい」との返答が。
その通り、試作した「湊魂」を学校へ持っていくと、なんと先生全員が試食し、いっぱいのレポートが返ってきたのだそう! そのレポートをもとに何度か試行錯誤を繰り返し、完成したのが「湊魂」なのです。
レポートには「パッケージは上品な感じでなくて、もっと湊らしい感じがいい」「湊の青を使うのはどうか」「もっと塩をきかせた方がいい。しょっぱいくらいが湊らしい」といった具体的なアドバイスが書かれていました。現在の「湊魂」は、当初のものからマイナーチェンジを加えていますが、基本的なコンセプトは、当時もらったレポートのイメージのままです。
くぅ〜〜、なんとも熱い話! 湊中学校出身の筆者としては、湊魂を感じざるをえない展開です。あつもり!!!
老若男女問わず、安定した人気をほこる「湊魂」ですが、唯一の欠点は、仏事関係で使えないこと……。そういった意図はないものの、確かにちょっと使いにくさのある商品名かもしれません(笑)。
次に紹介するのは、「味玉まんじゅう」130円(1個)。
一見ただのおまんじゅうのように見えますが、中に入っているのは湊民のソウルフードのひとつ……、〈沖野商店〉の「味玉」ッ!!
「帰り道で買い食いをするべからず」という校則を破ってでも部活帰りに寄って食べ、〈ビッグハウス〉のお買い物帰りに寄って食べ、学生時代を湊で過ごした人たちの青春を共にしてきたといっても過言ではない〈沖野商店〉の「味玉」。
その味玉が、〈港むら福〉のまんじゅうの皮に包まれてしまいました。
かわいい断面! キョロちゃんみたい!!
「味玉まんじゅう」の開発のきっかけは、湊中学校の文化祭での出店でした。その際、文化祭でしか販売しないものをつくりたいと考えた修さんから、「味玉まんじゅう」のアイディアが生まれました。天才か?
〈沖野商店〉の「味玉」単体で、その味が完成されているので、コラボには難しさが伴ったといいます。「味玉まんじゅう」では、しょっぱくて甘さのない「味玉」の味を邪魔しないよう、甘さを押さえた饅頭の皮を使用しました。隠し味はなんとマヨネーズ! 主役の「味玉」を支えるまんじゅうの皮のちょうどいいことよ……。神なのかな?
最初の2年は文化祭でのみ販売していたそうですが、反響が大きかったため、毎週土曜日に限定販売を行うことに。10年以上続いている大人気コラボ商品です。一生続いてほしいと願ってやみません。
最後に紹介するのは「酒のしずく」540円。
一時期SNSで大ブームとなった琥珀糖に、湊町に蔵をおく〈八戸酒造〉の日本酒「八仙」の香りをつけたお菓子です。きらきらと輝く琥珀糖は、“食べる宝石”ともいわれ、「酒のしずく」の琥珀糖も美しさ全開!
指で持ち上げても硬さを感じる表面は、口に運んでみるとシャリッとした食感ですが、中の食感はプルプルとしています。まさに一粒で二度おいしいお菓子です。
実は昨年、〈八戸市美術館〉で開催された『馬場のぼる展』にあわせ、〈金入〉とコラボした『11ぴきのねこ』モチーフの琥珀糖にも挑戦!
昨年の様子。現在は販売されておりません。
色や味わいなどのイメージを擦り合わせるために、何度もつくり直したといいます。
その後〈金入〉とのコラボを経て、「酒のしずく」以外で、季節の琥珀糖の販売を開始しました。現在は洋梨味を販売中。他にもそれぞれの旬の時期がきたら、りんごやいちご、ブルーベリーなどもつくっているそうです。
琥珀糖の販売を開始して、感じたことがあるという修さん。
「琥珀糖は昔からある和菓子のひとつ。琥珀糖を販売し始めてから、もっと和菓子らしい和菓子を、今の人に伝えていきたいと思いました」
〈港むら福〉3代目、舩場修さん。
純粋な和菓子を楽しんでもらうべく、〈港むら福〉で一番力を入れているのは「あんこ」。一般的な和菓子屋さんでは、あんこはあんこ屋さんから買うか、小豆を煮て濾した状態のものを購入し、そこから砂糖などで味付けして練ることがほとんどだといいます。
ところが、〈港むら福〉では、小豆を煮るところから、濾して練るところまで、すべて手づくりで行っているのです。そんなこだわりのあんこを楽しめる商品も店頭には並んでいます。
「栗蒸し羊羹」1,620円。甘さが控えめで、ひとりで食べきれてしまうほどのおいしさ。
一時期は八戸でも屈指のにぎわいを見せていた湊町ですが、現在は元気のない様子が続いています。
「〈港むら福〉に来たら湊を見て回ってもらいたいし、湊に来たなら〈港むら福〉にも来てほしい。そういうふうに、湊全体に元気を循環させられるようにしていけたら最高だよね」と語る修さん。
“湊魂”とは、湊地区で学生時代を過ごしたからこそわかる、非常に抽象的であいまいな合言葉です。しかしながら、湊の人たちはどんなに苦しい状況も“湊魂”で乗り越えてきました。
私の学生時代を振り返りながら、思います。“湊魂”はひとりでは成り立たないと。
誰かの心に灯った炎を、いろんな人が囲い、応援し、力になってくれたりすることで“湊魂”は本来の力を発揮することができるのです。それはまるで、〈港むら福〉の「湊魂」誕生秘話と同じように。
それは湊だけの話ではなく、八戸全体にも同じことが言えるかもしれません。八戸を思う誰かの熱い心に、そっと寄り添う編集部でありたい。そんなことを感じた取材でした。
“湊にしかない”魂のこもった和菓子たちが並ぶ〈港むら福〉。みなさんもぜひ、〈港むら福〉の湊魂を感じに、湊に足を運んでみては?