日本酒の水先案内人に導かれて。〈酒BARつなぐ〉で癒しのときを過ごす。【鷹匠小路】

せわしなく車が行き交うゆりの木通りに面したビル。その細い階段を上っていくと、酒をつくる蔵人だったという店主が営む日本酒専門店、〈酒BARつなぐ〉がありました。今回はモダンな店内でゆったりとしたBGMを背景に、のんびりと日本酒の味わいを楽しみながら、日々の疲れを癒してくれる空間をご紹介します。

writer
なつめ-natsume

1995年生まれ。青森県八戸市出身・在住の駆け出しライター/フォトグラファー。郷土愛たっぷりな3人組『海猫ふれんず』として、八戸圏域の魅力発信を中心に活動中。誰かが守り続けてきてくれた今ある地元を、今度は自分たちが守り、未来へ繋げることをテーマに日々成長していければと思います。

『海猫ふれんず』
YouTubeTwitterInstagram

 

 

日本酒の水先案内人、鷹匠小路に現る。

日が長くなりまだ空も明るい夕暮れどき、家路につく多くの車が、ゆりの木通りを行き交います。みなさん今日もお疲れさまでした。

なにか癒しがほしいというこんな夜は、こちらの階段をのぼってみましょう。

お店へと誘うように並ぶ日本酒の瓶

暖色の照明が灯され、波型の曲線が美しい木製のカウンター席とテーブル席が用意されたモダンな店内。いたるところに並べられているのは一升瓶……。ここは〈酒BARつなぐ〉。2018年6月に開店した日本酒専門のバーです。

こちらでは飲み比べができる利き酒のコースもあれば、店主おすすめ今週のラインナップから選ぶこともできます。メニュー表を見てみると地元のお酒、陸奥八仙はもちろん、高知の酔鯨など、全国各地の日本酒が用意されています。

カウンターの向こう側に並べられているのは大小さまざまなワイングラス。注文した日本酒はこちらのワイングラスに注がれます。近年、酸味があって甘酸っぱい日本酒が多くつくられるようになりました。ワイングラスで提供する理由は、日本酒の味だけでなく、その香りも楽しんでもらいたいから。そして、その理由はもうひとつ。

「サイズ感がちょうど良いんですよね、日本酒を少しずつ飲むのに。それが一番の理由かな。酔っ払うのも楽しいんですけど、ここではほろ酔い程度で、いろんな日本酒の味わいを楽しんでほしいので」

そうお話してくれたのは、店主の小笠原 慎(おがさわら まこと)さん。

〈酒BARつなぐ〉で取り扱う日本酒は30種以上。店主の小笠原さんが、実際に飲んでみて美味しいと感じたお墨付きのラインナップです。八仙や田酒などは地元の酒店から、その他県外の酒店からも仕入れを行っています。これらの中から、甘い、辛いなどお客さんの好みの傾向を聞きながらそれに合うお酒を探していきます。

どんな人にも幅広く対応できるようにバリエーションも豊富。多くの日本酒はアルコール度が15~16%ですが、お酒に弱いという人にも楽しんでもらえるよう、12%程の味わいの軽い、いわゆる低アルコール日本酒もあります。

赤武 AKABU 純米 AIR、アルコール度数12%。シュワッとした発泡感がありフルーティーで軽やかな味わい。

注文した日本酒を目の前でついでもらいながら、その味わいについてお話を聞くことができるのも〈つなぐ〉の特徴です。ついだ日本酒の瓶はそのままお客さんのテーブルの上に並べてもらえるため、ラベルから得られる情報をじっくりと眺め出会いを噛みしめることもできます。

近年の日本酒のラベルは渋いものからポップでおしゃれなものまで、幅広いデザインがあるため、目で見て日本酒を楽しむのも一興です。

シーズン限定の日本酒を発売する酒蔵も多いそう。春らしく華やかでオシャレなラベルが並びます。

「お客さんの舌になったつもりで、お客さんと一緒にぴったりのお酒を探していきます」

数ある中からお客さんにぴったりな味を探す。豊富な日本酒の知識をもって、お客さんの好みに合った日本酒を紹介していく姿は、まるで河川で船を導く水先案内人のようです。そんな小笠原さんの日本酒の知識と腕利きのゆえんは、日本酒に対する愛と探求の過去にありました。

 

酒好きじゃなかったサラリーマンが、酒蔵の蔵人に

もともと、そんなにお酒が好きなわけでも強いわけでもなかったという小笠原さん。神奈川県海老名市でのサラリーマン時代、こだわりの純米を醸造している泉橋酒造が職場の近くにあったことから、日本酒を飲む機会が多くなったといいます。

同僚にも酒好きが多く、週末の飲み会も増えてきたなか、思わぬ出来事が。リーマンショックでした。会社も大きく影響を受け、それをきっかけに「ずっと会社にいるのか?」「会社に骨を埋めるのもいいけども、他の道もあるのでは?」と考えはじめます。

そんな思いで取得したのが、日本酒の魅力をお客さんに伝え楽しんでもらうための知識とスキル「唎酒師(ききさけし)」の資格です。26歳、まだ会社に勤めていたときのこと。それから日本酒との付き合いがはじまりました。

東京の日本酒バーで働きはじめた小笠原さんは、多くの試飲会などを通してさまざまな種類の日本酒について勉強することとなります。東京は全国の日本酒が集まる場所、勉強にはぴったりの場所でした。

その頃から「いつか独立したい」と考えはじめたそう。そして日本酒と深く繋がるほどに、その探求心も強くなっていきます。日本酒の種類や楽しみ方、味わいの違いに留まらず、だんだんと味わいの違いが出る理由や仕組みについて勉強したいと考えはじめると、偶然にも地元の八戸酒造で求人が出ていることを知りました。

「東京は全国の日本酒と触れる機会があった。そこを離れて八戸に帰ることに案外抵抗はなくて……、震災があったからかもしれないですね。なかったら、帰ろうとは思わなかったかも。独立するためにもっと深く日本酒のことを知りたいと思ってたので、今度は蔵人に挑戦することにしました」

そして日本酒を提供する立場から、日本酒を造る蔵人へ。蔵人の仕事は知識も大切ですが、一番は体力勝負だったといいます。そこでは日本酒づくりの多くの知識や技術を、研修や訓練・実践で学びました。

 

日本酒と人とを“つなぐ”ことで、癒しを提供。

八戸酒造での蔵人の経験を経て、かつて見た独立の夢を叶え、ついに開店した〈酒BARつなぐ〉。

「蔵人の仕事も好きだったんですよ。続けるのもいいかなって考えましたが、いつか日本酒バーとして独立したいという夢をずっと追い続けてきたから。最後まで貫こうと思ったんです」

提供するのは多くの日本酒と癒やし。日本酒の豊かな香りと味わいを楽しみ、日常から一度離れ、気分転換やリラックスできるような癒やしの場にしたいと小笠原さんは言います。

「人間が癒やされるときって、つながりを感じたときなんだそうです」

ここではおいしい日本酒とつながったときに癒やしを感じてほしい。今まで重ねてきた知識と経験を生かして、人々が新たな日本酒と出会うためのつなぎ役になろう、そんな思いが〈つなぐ〉という店名の由来となりました。

「ここで得た癒やしが活力やモチベーションにつながってくれたらうれしいですね」

仄暗い店内に流れるBGMはシティポップ、ネオシティポップなどと呼ばれるような、メロウな心地よい音楽をチョイス。透明なワイングラスに注がれた珠玉の日本酒を、少しずつ、少しずつ味わうことで、長い夜を楽しみ、癒やされながらチルするのにぴったりな空間がここにはありました。

一昨年から不定期に開催されている日本酒の会は会費制のため、普段は高くて一人では手を出しにくい日本酒を参加者でシェアすることで、気軽に楽しむことができます。

今話題の青森県を代表する酒蔵「陸奥八仙・田酒・豊盃」の合同プロジェクト「三ッ友恵(みつともえ)」でつくられた日本酒の提供も7月に予定しているため、また新たな日本酒との出会いが期待できそうです。

ハードルが高いお酒と思われがちな日本酒ですが、どうか気軽に店に訪れて飲んでみてほしいと小笠原さんは言います。〈酒BARつなぐ〉ではゆっくりと、味わいを楽しみながら次の日に残らない飲み方で日本酒を提供することを心がけているそうです。

もともとはお酒が好きでなかったという青年が、日本酒に出会ったことでその魅力に惚れ込み、探求し、今ここに〈酒BARつなぐ〉があります。信頼のおける水先案内人に導かれ、八戸から全国の銘酒とつながり、その味わいに浸りながら長い夜を楽しむ。日本酒が与えてくれる癒やしの空間に、足を踏み入れてみませんか?

公開日

まちのお店を知る

最近見たページ