仕入れはおばちゃんネットワークや産直から。旧三春屋裏の蔵を改装したフランス料理店〈ラ・メゾン ポデタン〉でコースランチを。

旧三春屋の裏側にある大きな壁画が特徴的な〈ラ・メゾン ポデタン〉は、八戸の中心地で22年続くフランス料理店。岩手県二戸市浄法寺出身のオーナーシェフ、三浦祐紀さんは、独立するときに日本以外にも海外進出の話も受けていたといいます。生まれ故郷でもない八戸に、どうしてお店をオープンしたのか。料理やサービスには、どんな想いが込められているのか。コースランチをいただきながら、その裏側のストーリーを伺ってきました。

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松浦奈々-nana-matsuura

盛岡市在住。八戸市の浜育ち。広告代理店の営業経験を経て、2024年春からフリーのライター兼フォトグラファーに転身。
家族が実家を引き払い、岩手へ移住してきたことで今や生まれ故郷に帰る場所がなくなったため、月1回先輩の実家に居候させてもらいながら、はちまちの取材に挑む。レトロなものとフィルムカメラと、イカドンと八戸の空気が大好き。
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フランス料理、テーブルマナーやドレスコードは?

さて、フランス料理といえば、テーブルマナーやドレスコードなどが気になるところ。
筆者は取材の3日前くらいから少々緊張しており、Googleの検索軸にはマナーや服装に関する履歴がずらり。

クローゼットの前で思いあぐねた結果、白のパンツに白黒のドッド柄のブラウスを着用して伺うことにしました。

ドアを開けると、落ち着いたトーンのインテリアたちが出迎えてくれました。

(ライブキッチンだ……このだるま可愛い……! 結婚式以外にフレンチをいただくのがほぼ初の筆者。相当緊張しています)

お店は、オーナーシェフである三浦祐紀さんと、妻の博子さん、週末の夜にはサービスとしてオーストラリア人のローソンさんが加わり、3人で営まれています。

「こんな服装で大丈夫でしょうか……」とおそるおそる尋ねると「だめだ!」と、冗談めいたお茶目で優しい表情で回答をいただき、肩に入っていた力がするするとほぐれていきました。

「席はどちらがいいですか」と尋ねられ、店内をぐるりと探索。

テーブル席が4つと、

カウンター席が2つ。

入り口の方に戻ると、個室がありました。

ライトが素敵。

せっかくなので調理をしている姿を近くでみたい、ということでカウンター席へ。

三浦さんは、岩手県浄法寺出身。神奈川県箱根の富士屋ホテルを最初に、仙台、岩手のホテルで修行を積んだのち、岩手県八幡平の安比高原にあるレストランでスーシェフを務められました。

妻の博子さんは、仙台出身。お二人は仙台で出会い、2002年に八戸に移住してきました。

 

「たくさん声はかけられたけど、八戸に縁があったから」

三浦さんに「どうしてここにお店を開いたのですか?」と聞いてみました。

「独立するタイミングで、いろんな話があったの。お医者さんが経営するレストランへの引き抜きだったり、あとはタイのホテルで料理長をしてくれないか、というお誘いもあった。 秋田のお客さんからは、うちの病院の裏にレストラン建ててやるからって言われた。そのなかでね、ここはそういう条件は何もなかった。でも縁があった。八戸に誘ってくれる人がいたからね」

「縁があった」ということをそのときは深く語らなかった三浦さんでしたが、お店の名前の由来を伺っているときに、なぜこの地に根を張ることを選ばれたのか、その理由が浮かんできました。

 

変わりゆくなかに、変わらないものがあるのは

「昔はビストロで、今みたいにコースではなく、単品を出していたんだ。新型コロナが流行り出して、もしかするとテイクアウト中心になるかもしれないと思って、テイクアウトにも対応できるようにと、そのタイミングでお店を改装した。2020年、それをきっかけに完全予約制のコース料理だけの提供に転換した。だから、ビストロからメゾンに名前も変えた。

ポデタンっていうのは、フランス語で錫製のつぼっていう意味。金属の錫製の器とか。そういう感じだよね。フランス人ってね、ものをすごく大事にするんだよ。母ちゃんから娘に、今度はあなたが大事に使って、と引き継がれたりする。

料理もそう。 母ちゃんが娘に教えるから引き継がれていくし。で、建物もね、こういう蔵とかそういうのだって、壊してしまえばそこまでだけど、うまく使ってたらね、引き継がれて残っていく。海外なんか建物をすぐそんなに壊さないから。だから昔の街並みが残っている」

三浦さんのお話は、心に突き刺さるものがありました。

 

選べるコースメニュー

……と、料理の話が全然できていませんでしたね。みなさんお待ちかねの気になるポデタンのランチには、3つの金額帯でメニューが用意されていました(仕入れの状況によって、コースメニューは変動します)。

・パスタランチ     3,300円
・ポデタンランチ    4,180円   ※メインはお肉かお魚か選べます
・スペシャルランチ   7,700円   ※お肉とお魚が両方提供されます

筆者は1番人気のポデタンランチを注文し、メインをお魚にしました。とても迷いましたが、お魚が八戸で獲れたソイだと聞いて即答。アレルギーの有無も聞いてくださるので、安心です。

ちなみにお肉コースは2種類から選べるようになっていて、今回は豚肉のビール煮込みか、三浦さんの故郷でもある浄法寺の稲庭短角牛から選べるようになっていました(こちらはプラス料金です)。

この丸いのは、インドのおせんべい! 揚げる前のものはペタンコで、揚げると球体になるとのこと。初っ端から見たことのないお料理で、筆者の心拍数がガーっと上がります。

・鱈のブランダード
(自家製の干鱈とジャガイモをオリーブオイルで練り上げたもの)

特等席からお料理ができていく過程をジーッ。次は何が出てくるのかな……。シェフの真剣な眼差しが、さらに食欲と期待度を高めます。

右上の白いモフモフしているのと、左下の葉っぱはなんだろう……! 対角線上にお目にかかったことのないものを見つけ、ドキがムネムネ。説明をしていただくのが楽しみになります。

※左上から順に

・八戸のニシンのスモーク
ジャガイモはシャンパンヴィネガーでちょっと酸っぱめに味付けされているとのことでニシンと一緒に食べることをオススメされました。酸味が強くなく、食べやすかったです。

・杜仲茶豚と干柿のテリーヌ
八幡平で育った豚とのこと。すごくまろやかな味わいでした。

・菜の花とツクシのギリシャ風のマリネ
酸っぱいのかな……と思ったのですが、こちらも食べやすく箸休めの感覚でちょこちょこ食べました。

・新玉ねぎのムースとほうれん草のチュイル
ムースは食感がモフッとしていて、チュイルはパリパリ。食感がおもしろくて、ペロリ!

※左下から

・ プティベール
芽キャベツとケールの間にあるような野菜。ケールといえば苦味やえぐみを連想しますが、クセがなく、こちらもすぐペロリ。

・自家製のベーコンと玉ねぎ、長ネギのキッシュ
みんな大好きキッシュ! 最後にいただきました(好きなものは最後にとっておくタイプ)。

あと3品、コース料理は続きますが、ここいらで冒頭の写真で存在感を放っていた、カウンターにいたこちらのダルマさんを紹介させてください。

「持った感じが赤ちゃんみたいなんだよ」と博子さん。しっかりちゃっかり、抱っこさせてもらいました。

三浦さんの家は大家族。お子さんが5人いて、ご長男さんは私の1つ上の先輩でした。今は上京されているとのことですが、2020年コロナのときに一度八戸に戻ってきたとのこと。

ご長男さんは、隣町の三沢にある能面ギャラリー氈鹿(あお)という唯一無二の喫茶店で、能面の作り方を教わったことをきっかけに、ものづくりに目覚めたといいます。そこで習った知識を生かし、このダルマを作ったとか。

それをお客さんの目に触れる場所に、見方を変えればダルマにお客さんの様子が映るような位置に、こうして大切に置いているお二人の心行きに、また感動してしまうのでした。

さあ、本題に戻りまして、続いてはこちら。ここからは一挙に大公開!

・ポロネギとジャガイモのスープ、モミの木のオイル
(ポロネギは桔梗野の農家さんのもの、オイルはご自宅のモミの木から採取したもの)

・マゾイと付け合わせの山菜(こごみ、菜の花、ゆきざさ)
メインディッシュのソイですが、ご覧の通り、身がぶりっっとしていて、ぶりっと協会の会員たちも驚くくらいの(なんの協会だよ)身の引き締まりようで、本当においしかったです。どんな筋トレしたらそんな引き締まるのよ……という感じでした。

映画や小説でいうクライマックスシーンに運ばれてきた感動的なおいしさを放つマゾイ。あんた八戸で獲れたっていってたよね……こんな食材が生まれ故郷にあるなんて、知らなかったよ……と脳内で話しかけながら食べ進めました。

・キャラメルりんご入りバニラアイス
食後のデザートはメニューボードを渡されて、5〜7種類から選択できるスタイルでした。アイスやソルベ、ケーキなど、どれも魅力的すぎて選ぶのが大変でした。

「お食事された人によって、お口直しで食べたいものはさまざまでしょ? あっさりしたものを食べたい人だっているからさ」と博子さん。本当に三浦夫妻のサービスは、おもてなし精神に満ちたもので、どんどん居心地が良くなっていきます。

 

仕入れ先は、産直か、ばっちゃんネットワーク

「お肉やお魚は地のものや、故郷の二戸のものを使ってるね。地産地消ってよく謳われているけど、収穫したばかりのものをすぐ調理するのが1番おいしいからね。

昔は自分たちで山菜採りに岩手へ遊びに行ったりもしていたけど、 目利きのおばちゃんに出会ってから、良いものを採ったり生産してくれたりする人からなるべく買っていくことも大事だって思えた」と三浦さんは話します。

休日は産直に出かけるのが常だと笑う三浦夫妻。
そこに並んでいる商品には「生産者の顔」ともいえる名前が記されています。

三浦さんたちは、食べてみておいしかった食材の生産者さんをそこから記録しておき、産直のスタッフさんに相談して、繋げてもらうのだとか。

「タイミングがよければ、産直に食材を卸しにきているタイミングに遭遇できるからね」

こうして繋がったネットワークでは、生産者さんから新たな生産者さんを紹介してもらうこともあり、さらに横の繋がりが広がっていくといいます。

テーブルマナーに怯えていた筆者でしたが、いざ席に運ばれてきたのはナイフとフォークとスプーンの3つだけでした。

丸いおせんべいをいただいているとき、うまくナイフを活用できなくてあたふたしていたのですが「バターナイフでうまく割れなければ、手で割って食べるのでもいいよ」と声をかけていただくシーンも。

フランス料理ってパンなら手でちぎって食べるイメージでしたが、こうやってナイフがついてきても、自分が食べやすいようにしていいんだ……と新たに勉強。お作法にがんじがらめになっていたのですが、ここでもまた力んだ指先を緩やかにしていただきました。

「フレンチってどう食べていいかわからないからっていう人もいるけど、まずはフレンチに行ってみるってことをしなきゃ、別に普通に使えるんだっていうことすらわからないじゃない? ナイフとフォーク、スプーンのその3種類を駆使して食べやすいように食べてくれれば、いいだけだからさ」

生産者さんのエピソードも交えて繰り広げられる、ポデタンさんのコース料理。

旬のものをこうしてひとつひとつ説明していただく時間は、食材の知識が豊富ではない筆者からみれば「食育」そのもの。ハードルを高くしているのは、案外こちら側なのかもしれないと思ったのでした。

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