“見立て”の心で楽しむ古美術のすゝめ〈古美術まべちがわ〉。【六日町】

今や多くの市民が利用する複合ビルGarden Terrace。ガラス張りの玄関を進むと、豪華絢爛な器や、見たこともないような不思議な形のものが……。ここは骨董品で溢れる〈古美術まべちがわ〉。さあ、“見立て”の心を持って古美術の世界を覗いていきましょう。

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なつめ-natsume

1995年生まれ。青森県八戸市出身・在住の駆け出しライター/フォトグラファー。郷土愛たっぷりな3人組『海猫ふれんず』として、八戸圏域の魅力発信を中心に活動中。誰かが守り続けてきてくれた今ある地元を、今度は自分たちが守り、未来へ繋げることをテーマに日々成長していければと思います。

『海猫ふれんず』
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“見立て”の心で古美術を現代に取り入れる。

八戸中心街ターミナルバス停(六日町)の目の前にそびえ立つGarden Terrace。多くの市民が利用する店舗が入っており、真ん中に通っている広々とした通路からはマチニワやみろく横丁へと抜けることができます。

マチニワ方面へ歩いていくと、右手側の大きなガラス窓に〈古美術まべちがわ〉のロゴマークと、その向こうに伊万里焼の器や茶道具、絵画などが見えてきます。〈八戸ブックセンター〉と〈花屋リトルプランツ〉に隣接するその店は、2020年6月にこのGarden Terraceへと引っ越してきました。

盃洗(はいせん)。酒席で水を入れ杯を洗うために使われた器。

「“見立て”という言葉がお茶の世界にはあります」

「盃洗」を抱えながらそう話すのは、〈古美術まべちがわ〉の店主、松坂久恵(まつさかひさえ)さん。“見立て”とは日常的にも使われる言葉ですが、辞書によると「なぞらえる、仮定する、見なす」という意味があるそうです。茶聖・千利休は、これを茶の湯の世界へ取り込み、茶の湯の道具ではないものを道具として“見立て”て、新鮮で趣のある試みを楽しみました。

松坂さんは「盃洗を使うことなんて、今の時代ほとんどありませんから」と笑います。だからこそ、古美術の世界に“見立て”の精神が生きるのだそうです。盃洗を盃洗として使うことも、小物入れやお菓子を乗せて使うことだって持ち主の自由なんだとか。

八戸で買い付けた明治時代の浄法寺塗り。

昔それが何に使われていたかを知らせることが、骨董屋の役目のひとつ。道具としての歴史や産地をお知らせしつつ、新たな持ち主に新しい道具としての価値を見出してもらう場所が〈古美術まべちがわ〉です。

 

〈古美術まべちがわ〉の世界とは。

もともと骨董品を集めることは松坂さん夫婦の趣味でした。全国各地の骨董屋を巡り、家一軒分の骨董品が集まってしまったことをきっかけに、店を始めることにしたそうです。

店名「まべちがわ」の由来は、松坂さんがこよなく愛する郷土の小説家・三浦哲郎氏の物語の背景として、馬淵川がよく登場していたことから。2003年に古物商の免許を取得し、店は19年目を迎えます。

店は引っ越しを重ね、2020年6月にいわとくパルコから現在のGarden Terraceへと入居しました。その引っ越し方法は全て自力だったそう! 大量の骨董品を台車に積んで運び、何十回も街中を往復することになりました。棚も自分で組み立てるというこだわりっぷりです。

実はGarden Terraceオープン当初から、このビルでお店を開くことを夢見ていたという松坂さん。その一番の理由は、ガラス張りで開放感のある空間でした。天井の高い、ガラス張りの店内は差しこんだ日の光にうらうらと照らされ、数々の陶器が光を反射し輝きを放ちます。どこを見ても骨董品に囲まれて、まるで時が止まったかのような錯覚を起こしてしまいます。

こちらは〈古美術まべちがわ〉の骨董品のなかで、現在一番歴史が古いという“食籠(じきろう)”。神社や寺など人がたくさん集まるときに、おまんじゅうなどを入れる菓子器として使われました。江戸時代中期に作られ、一部は金で直されており、令和の今日までこの形のまま残っています。タコの足のようにも見える“蛸唐草(たこからくさ)”と呼ばれるこの模様は、縁起が良いとされる骨董のブランドのひとつだそうです。

卵殻漆器の棗。茶器のひとつで「薄茶」用の抹茶を入れるもの。

ほかにも、「オールド・イマリ」として世界に名を馳せる“古伊万里”をはじめ、抹茶を入れるために使われる“卵殻漆器”の棗(なつめ)や、“手桶型”や“中置”と種類豊富な水指など、さまざまな骨董品が店内に溢れています。

 

店主が愛する豪華絢爛な古伊万里の姿。

「ここから始まったんです」

懐かしそうに微笑む松坂さんが見せてくれたのは、ひとつの矢羽模様の蕎麦猪口(そばちょこ)でした。現代ではあまり見かけないその不思議な模様に惹かれたことがきっかけで、古美術の世界に興味を持ったそうです。

また、当時は身分の高い人しか使えなかった器を手に取れる特別感も、骨董品の楽しみのひとつ。自分が手にしているこの皿はどんな人たちが使っていたのかと思い馳せると……ロマンを感じますね。

そんな骨董品を、昔の人は傷がついても漆で繋いで直し、大切に使っていました。そのため骨董品のなかには傷物や、金継ぎなどで修復されたものも多く含まれるそう。なかには金継ぎ自体を伝統的なアートとして愛する人たちもいます。

 「壊れたものや、それを直したものでも売れるというところが、現代の商品と骨董屋の大きな違いだと思います」

 

骨董品を楽しむイロハを知る。

骨董屋としてのこだわりは“生活に取り入れてもらうこと”。そのため、お客さんがそれをどう使いたいかを一番に尊重しているそうです。お客さんが店内に入って来てくれたら、まずはその人が最初に興味持ったものを見ます。そして作られた時代や傷の有無など、手に取ったものに関する物語をお知らせします。背景を知ることで愛着が湧きやすいのだそうです。

骨董品の扱いに慣れない人にお話しするのは、まず骨董品の選び方。その理由は選び方を一度覚えると、次からはどこの骨董屋へ行っても自分で楽しむことができるから。

「まずはじめに、平らなところに置いてください。
そうするとカタカタ揺れることが分かると思います。昔のものですからね。
一番上に置いてあるものを手に取るのではなく、数あるうちのものの中から、一番使いやすいものを選んでみてください。カタカタしちゃうと、家では使いにくいでしょう?」

傷があるかどうか、使いやすいかどうかを確かめてほしいのだといいます。なかにはカタカタしたとしても、この絵が気に入ったからと選んでいく人もいるそうです。

「福」の字を省略した「渦福銘」が描かれたうつわ。

「それでもいいんです。必要最低限の選び方さえわかっていれば、楽しみ方はおのずとわかってきますから」

 

骨董屋で一期一会の縁を繋いでみませんか。

付き合いの長い常連さんはもちろん、ガラス張りのお店となってからは若い人や骨董品に初めて触れるという人も訪れることが増えました。みなさん最初はガラス越しに「なんだろう?」と覗いたことがきっかけで、店内に訪れる人が多いといいます。

そのため窓際のレイアウトは頻繁に変更しています。〈まべちがわ〉の前を通るたびに季節を感じられるようにと、先取りしてえんぶりやお雛様を外から見える位置に置いたり、隣の花屋〈リトルプランツ〉で花を購入し季節感を取り入れることも心がけているんだとか。

一点ものを扱う骨董屋では、一度売ってしまったものと同じものは、もう二度と手に入りません。そしたら、次の骨董の市ではどんなものと出会い、店に並べようかと考える時間が楽しいのだと松坂さんは言います。

かの千利休の言葉である“一期一会”とはまさに骨董屋と骨董品の関係と言えるのかもしれません。そんな出会いと別れを繰り返し、また新しい骨董品を求めて市へと繰り出すその根本には「また見たことがない骨董品が見れるかもしれないから」という、骨董愛があるから。

一期一会はなにも骨董品との出会いだけではありません。もちろん、骨董屋とお客さんとの出会いもあります。セレクトショップであるため、お客さんは自然と自分と同じ好みの人が集まってくるそう。また骨董屋では他の商売ではできないような、常連さんとの駆け引き“値引き交渉”も楽しみのひとつなんだとか。

店主の松坂さん。

知識がないとなんだか入りづらい……。骨董屋に対してそういったイメージを持つ人は少なからずいるかもしれません。〈八戸ブックセンター〉と隣接しているため、全国から観光客もよく訪れるという〈古美術まべちがわ〉。しかし、「本当は地元の人にも骨董品の面白さをわかってもらえたら」と松坂さんは言います。

いろんな骨董屋を渡り歩き、いろんなお店や骨董品を比べてもらえれば、骨董を見比べる目が養われるそう。「現代を生きる人々に、古いものに興味を持ち、大事にしてもらいたい。家にあってそのままじゃもったいない」と訴える松坂さん。まずは外のガラスから、〈古美術まべちがわ〉の骨董の世界を覗いてみてください。みなさんも“見立て”の心で、骨董品を生活に取り入れてみてはいかがでしょうか?

 

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