1.5km圏内に3軒も? かつての八戸中心地「小中野」リノベーションカフェ特集

今回は小中野にあるリノベーションカフェを特集します。お話を伺ったみなさんに共通しているのは、UターンやIターンで八戸に引っ越され、小中野エリアにあった古民家をリノベーションしてお店を開いたこと。どうしてここ、小中野を選んだのでしょうか。〈saule branche shinchõ(ソールブランチ新丁)〉〈植物屋ARAYA〉〈6かく珈琲〉の3本立てで、店主のみなさんの想いにぐっと近づいてお届けします。

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松浦奈々-nana-matsuura

盛岡市在住。八戸市の浜育ち。広告代理店の営業経験を経て、2024年春からフリーのライター兼フォトグラファーに転身。
家族が実家を引き払い、岩手へ移住してきたことで今や生まれ故郷に帰る場所がなくなったため、月1回先輩の実家に居候させてもらいながら、はちまちの取材に挑む。レトロなものとフィルムカメラと、イカドンと八戸の空気が大好き。
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saule branche shinchõ(ソールブランチ新丁)

かつての地域名である「新丁」を冠する〈saule branche shinchõ〉。その営業日は不定期。2階のギャラリースペースでイベントが開催されるときのみ、お店の扉が開きます。隔週のときもあれば、月に数日のみ営業する場合もあり、私のようにHPのスケジュールを入念にチェックしては、自分の手帳と照らし合わせて一喜一憂している方もいるのではないでしょうか?

店主の吉川拓志さんは青森県十和田市出身。ここ小中野で〈saule branche shinchõ〉をオープンされたのには、こんな理由がありました。

「この場所は、120年以上前に料理店として開業し、その後、妻のおばさんが引き継いで旅館として営業していました。おばさんが亡くなってこの場所が残り、建物を壊すか、それとも誰かに貸すかって話も出たりしてね。私は片付けを任されてここの掃除をしたり、ごみを捨てたりしていたんですが、元旅館ならではのこの広さを生かしてお店にしたほうが面白いかも、と思って動き始めました。片付けからオープンまで5年ぐらいかかったと思います」

玄関の造りは、旅館の入り口の光景そのもの。

急な階段も、当時の息吹を感じさせる。

当時の面影を残すかたちでリノベーションした。

ガトーショコラ(550円)は濃厚で食べ応え抜群。レモンスカッシュ(550円)はほどよい甘さで、爽やか。

「片付けをしていると、ここの昔を知っている地域の方が『いつお店を開けるの?』と来てくれることもありました。5年もかかったから、だんだんとみんなが応援してくれる雰囲気になってきてね。『あそこ、店になるのかな?』 『また車が来てる。ついにお店になるのかな?』と思うのに、なかなかお店ができないって地域の方々は思っていたかもしれないね」

吉川さんと、もう1人のスタッフであるYAMさんの2人で営まれる〈saule branche shinchõ〉。お二人の交流は古くからで、一緒に音楽活動も盛んに行っているそう。
〈saule branche shinchõ〉という拠点ができた事により、さらに活動が広がり楽しくなったと話します。

「展示内容は、すべて私とYAMさんで計画しています。展示期間のみの営業ですが、私たちが面白いこと、楽しいことを自由に企画して、それでお客さんが喜んでくれたらいいかなって思ってます。自分たちで作り出したものだからこそ、熱をもって告知できるんです

〈saule branche shinchõ〉は今年の12月で10周年。
このまちに昔あったもの、今あるものを生かして、自分が好きなことを真っ直ぐに楽しみ続ける吉川さんのお話しを聞いて、限られた営業日にもかかわらず、客足が途絶えない理由がわかる気がしました。

 

<shopinfo>

saule branche shinchõ(ソールブランチ新丁)
住所:青森県八戸市小中野8-8-40
電話番号:0178-85-9017
営業時間:12時〜18時
※ギャラリー展示があるときのみの営業(詳細はHPをご確認ください)
定休日:不定休
公式HP:http://saulebranche.info/
公式SNS:https://www.instagram.com/saulebrancheshincho/


 

植物屋ARAYA

〈saule branche shinchõ〉から小中野駅方面へ。駅から徒歩2分程度の場所にあるのが〈植物屋ARAYA〉です。店主の荒谷真奈美さんは福島県出身で、もともと埼玉県に住んでいたそう。夫の実家が八戸にあったことから7年前にこのまちへ移住してきました。

〈植物屋ARAYA〉では、観葉植物を取り扱いながら、手焙煎で淹れたコーヒーや、県内のパティシエが作った珠玉のスイーツなども提供。空間づくりが好きな荒谷さんは、使用するお皿選びもひとつひとつ丁寧に選定しています。植物の販売もお客さんのお部屋に溶け合うかたちを考えながら、飾り方や鉢の組み合わせなども含めて提案するのだといいます。

荒谷さんは2015年から、根城で植物屋を営んでいましたが、2018年にここ小中野に〈植物屋ARAYA〉として移転リニューアルしました。どうしてこの場所にお店を移転させ再スタートされたのか、その理由を伺ってきました。

「夫の祖父が80年前にこの家を建てたんです。義祖父は大工の棟梁で、なかなか粋な方だった。この襖や欄間に彫られたデザイン、かわいいでしょ? 大工さんの本とか、デザイン画集とかがうちに残っていて、それを見ながら義祖父は勉強していたんだと思います。このガラス窓もやっぱり壊したくないものでしたね。こうして残しておいて、よかったと思います。

こんなにも素敵な空間だから、空き家にしておくのがもったいなくて。人が住まなくなると建物ってすぐ痛んじゃうので、福島から両親を呼んで10年ほど住んでもらっていました。3回地震を経験したけど、大丈夫でした。むしろ木造のほうが強いんだなと思いましたね。

壁や天井は薬剤のついたブラシで洗ってきれいにしたり、漆喰だった壁は私の父が土壁に塗り替えてくれたりして、建物を長く残していくためにメンテナンスをしていました

過去に大病を患ったという荒谷さん。それまでは家事に専念する日々でしたが、治療が終わって元気になったとき「何か始めたい」と思い、浮かんだのが大好きな植物のことでした。根城で植物屋をオープンさせ、夫の富宏さんが手焙煎で淹れたコーヒーをお客さんに振る舞っていたところ、それが好評に。

「あるとき、両親が亡くなってここがまた空き家になったので、ここの方がお客さんを呼びやすいし、場所もわかりやすいと思って、ここにお店を移転させることにしたんです。お店が広くなるので、カフェもできると思って。今は息子が夫のやり方を引き継いで、手焙煎でコーヒーを淹れています」

ケイクセット(1,200円)。zilch  studio 東さんの週替わりのケーキとドリンクのセット。

セットドリンクで選んだのは、自家焙煎アイスコーヒー。ほどよい苦味がありつつも、マイルドな味わい。

また、〈植物屋ARAYA〉で提供しているスイーツは、県内の職人さんや生産者さんが手がけています。青森県のおいしいものを紹介したいという気持ちが強くあったと、荒谷さん。

「私は、ご飯は作れるけれど、スイーツは作れない。ここをオープンさせるなら『絶対あの人に頼みたい』という人がいました。職人さんや生産者さんがイベントに出店されているものや、ほかのお店のメニューを食べることが好きで、自分が食べてみて印象に残っていたものを提供したくて、その方々に打診して今のかたちがあります。

メニューのそばには、職人さんや生産者さんの紹介文が。すべて荒谷さんの言葉で丁寧に綴られており、この冊子を読むことで、裏側にある背景が立体的に見えてくるのも楽しい。

「人の繋がりから私が得たものをここで提供して、応援したい。好きな職人さんが作ったものを出して、自分のお店もそれで潤えば、一番幸せだと思うんです」

暖簾をくぐってお店に入ると目に入った、竿にかけられたはっぴ。

「お盆がくるから、おじいちゃんが喜ぶかなと思って」

残されたものを生かして大切にする姿勢と、人との繋がりを大切にする荒谷さん。義祖父の想いを受け継いで、ここ小中野に〈植物屋ARAYA〉をオープンして、今年で6年。言動のひとつひとつに愛を感じる時間に、何度も心が揺れ動きました。植物だけでなく、荒谷さんに癒しを求めてきてしまうのは、きっと私だけではないはずです。

 

 <shopinfo>

植物屋ARAYA
住所:青森県八戸市小中野8-8
電話番号:090-6227-1035
営業時間:11:30〜19:00(日曜〜18:00)
定休日:月・火・水曜
公式SNS:https://www.instagram.com/shokubutsuya_araya/

 

 

6かく珈琲

2022年にオープンした〈6かく珈琲〉は、今回紹介する3店のなかではもっとも新しいお店。店主の吉島康貴さんは、八戸市出身。東京でアパレル業界を経験したのち、宮崎で炭作りの仕事に従事。2015年に八戸へUターンし、〈6かく珈琲〉を開きました。備長炭を製造する「製炭業」で働いた経験を生かし、七輪の炭火で無農薬の生豆を自家焙煎したコーヒーを提供しています。その味に虜になる方々は県外にまで及び、豆の取扱店も拡大中。

しかしながらUターンした当初、吉島さんはお店を持たず自らイベントを企画し、出店していたといいます。なぜ小中野でお店を始めたのか、伺ってきました。

「どこでお店を開くかというのは、とても意識していました。僕、小中野が好きなんですよね。小中野出身ではないのですが、実家はここからわりと近いまちにあったので、小さいときから小中野はよく来ていたんです。

初めは中心街で1年くらいお店を探していたんですが、納得できる場所がなかなか見つからなくて。でも小中野にきたら、すぐにここを見つけた。今思えば遠回りをしたけれど、ここでやるっていうことだったんだと思いますね」

お店の近くにある〈saule branche shinchõ〉の吉川さんとYAMさん、〈植物屋ARAYA〉の荒谷さんの存在が大きかったといいます。

「その方々と同じ地域でやれるってことも、決め手のひとつでした」

自分たちがここにいる意味みたいなことは、常に考えています。この地域に対して、何ができるのかっていうのは、とても意識してると思いますね。

一時期はイベントを企画したり、マルシェに参加したり、まちづくり関係の運営に携わったこともあって『まちがどう変わっていくか』ということに関心がありました。組織が大きいほど、変化って鈍化してしまうとも感じていて。

小中野の方々って、プライドが高くて。橋を挟んで隣の港地域とも雰囲気が違うというか。僕、そこもいいなって思ったんですよね。

魚が捕れなくなって、船が減っていくのは仕方がないことだけど、やっぱり八戸の顔っていうのは港だから。 魚が捕れなくても、港町は続いていく。だったら現代にあった港町を今いる人たちで作っていかなきゃいけないと思うんですよね」

チョコソフトクリーム(650円)は、力強いカカオの味わいが口いっぱいに広がる。

1895(明治28)年に着工されたであろう建物は、まもなく築130年を迎えます。船の運送会社から、花街時代には旅館業、その後は町の診療室だったといいます。船の模型があったり、シンクが旅館の厨房サイズだったり、玄関横には薬部屋があったりと当時の名残が。かたちを変えてもこの場所が、その時代に応じて呼吸をしていたのがわかります。

大きな窓が特徴的な、2階のギャラリースペース。

小中野というまちに魅せられて、ここにお店をオープンさせた吉島さん。コーヒーやスイーツなどの提供だけではなく、2階のギャラリーでは企画展や音楽イベントが開催されることも。当時の面影を生かしてこの空間を守り続け、ここ小中野にきた意味を常に意識し続けます。

インタビュー中の言葉の端々からは、小中野に対するリスペクトや愛が感じられる場面がたくさんありました。

吉島さんへオーナーが変わった今、ここでどのような変化が起こっていくのか楽しみです。

 

 shopinfo>

6かく珈琲
住所:青森県八戸市小中野8-13-2
営業時間:12時〜18時
定休日:月・火・水曜
公式HP:https://www.6kakucoffee.jp/
公式SNS:https://www.instagram.com/6kaku_coffee/


 

おわりに

ここ小中野は、江戸時代に漁業で栄えたまちでした。商人や漁師が行き交う場所だったため、歓楽街もありました。車幅のある車は通るのが大変な細い道があったかと思えば、2車線分もあるような広い道に出合うこともありますが、それもここが花街だった証。小中野には銀行が400メートル以内に5つもあり、小中野のまちを歩けば、令和を生きる私たちでも当時の面影や、その歴史を感じとることができます。

はちまちの小中野特集を通して、このまちでご活躍されている方々にたくさんお話を伺いましたが、100%といっても過言ではないほど、みなさん「小中野が好き」と口を揃えておっしゃいます。そして、このまちに誇りをもっている。

〈saule branche shinchõ(ソールブランチ新丁)〉の吉川さん 、〈植物屋ARAYA〉の荒谷さん、〈6かく珈琲〉の吉島さんのお話は、小中野に対する愛と残されたその場所へのリスペクトをとても感じられものでした。

このまちに昔あったもの、今あるものを大切に生かして、引き継いでいく。

自分がいる場所や、住んでいるまちを想い続けるその眼差しに惹きつけられるのは、きっと私だけではないはずです。この記事が、少しでも多くの八戸市民に届きますように。

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