〈ひろがる酒店〉で、酒を通じて“ひろがる”場所へ。開業秘話に迫る!【堤町】
八戸市堤町に店をかまえる〈ひろがる酒店〉。2023年8月にオープンし、角打ちのできる酒屋として、市民の間で話題になっています。実は、店主の松下真之助さんは、茨城県出身の証券マンだったのだとか! 真之助さんはなぜ八戸で開業を? そしてなぜ角打ちスタイルの酒屋にしたのか? 今回の記事ではじっくりお話を伺ってきました。
八戸市堤町に店をかまえる〈ひろがる酒店〉。2023年8月にオープンし、角打ちのできる酒屋として、市民の間で話題になっています。実は、店主の松下真之助さんは、茨城県出身の証券マンだったのだとか! 真之助さんはなぜ八戸で開業を? そしてなぜ角打ちスタイルの酒屋にしたのか? 今回の記事ではじっくりお話を伺ってきました。
八戸市堤町のハナミズキ通り沿いに店をかまえる〈ひろがる酒店〉。店内に入ると、白を基調とした内装に、高めの天井、大きな一枚板のカウンターが出迎えてくれます。
〈ひろがる酒店〉で取り扱っているお酒は、主に日本酒や国内産クラフトビール。たまにワインを仕入れることもあるそうです。同店の魅力といえば、角打ちができること!
その日のメニューボードに記載されているものならば、飲み比べや試飲ができるのです。簡単なおつまみも楽しめます。
立ち飲みとしても寄りやすく、飲んだ酒を手土産にもできる〈ひろがる酒店〉。これはもう、0次会で行くべきです。絶対行くべき!!(力強く)
店主の松下真之助(しんのすけ)さんと妻の亜紀子さんのふたりで経営している同店ですが、実は真之助さんの出身は茨城県。しかも以前はサラリーマンをしていたとか……!?
なぜ松下さん夫妻は、八戸で酒屋をすることになったのでしょうか?
お酒が大好きだという真之助さん。昔から漠然とお酒に関する仕事をしたいと考えていました。
店主の松下真之助さん。
サラリーマン時代は証券会社につとめ、八戸市の支社で11年ほど勤務していたのだそう。当時の状況としてはなかなか独立の一歩を踏み出せる状況ではなかったため、日本酒について調べたり、飲みに出る際も酒屋さんとしての視点を持ちながら飲み歩いたりと、勉強だけは続けていました。
その後、社内の状況が変わり、新たなことに挑戦したいと考えた真之助さんは、一度東京に戻ります。しかし、1年ほど経って「どこかで動き出さないと始まらない!」と、思い切って退職!
「退職をきっかけに、具体的なことが動き出した感じですかね。開業する人にとってはよくない例かもしれませんが(笑)」と笑う真之助さん。いやいや、まずその一歩を踏み出すことがものすごい勇気だと思います!
しかし、ここで真之助さんの前に困難が立ちはだかります。その名も「物件探しの関所」!!
当初から、実際に試飲してから買ってもらうスタイルの酒屋をやりたかったという真之助さん。ただ酒を買いにきてもらうお店ではなく、人と人との縁が生まれる場所にしていきたかったのです。
そのスタイルを叶えるための立地や広さなどの理想を掲げ、物件を探していました。当初は地元である茨城県で探していたそうですが、ピンとくる物件を見つけることができず、途方にくれてしまいます。そこで、真之助さんも長く住んでいた八戸市で物件探しをすることに。
八戸市でも何軒も見て回ったそうですが、なかなか理想の物件を見つけられずにいたそうです。そんなある日、知人の紹介で現在の物件を発見!
自分たちで塗ったという白い壁。おしゃれすぎる。
広さも申し分ないし、中心街から離れすぎておらず、自分のやりたいことを実現できそうだと感じ、こちらの店舗に決めたそうです。
市民の間では、名店が立ち並ぶと噂のハナミズキ通り。今後は〈ひろがる酒店〉も、名店のひとつとして名を連ねることになるはず!
店名の〈ひろがる酒店〉は、人と酒、人と人の縁が広がっていきますようにと願いをこめてこちらの店名にしたのだそう。
そのようなコンセプトを持つきっかけになったのは、酒がつないでくれたとある人との縁だと真之助さんは語ります。その人の名前は「シミズさん」。
ロゴをよくみてみると、左から2匹目のペンギンの体が「ひ」の字に。隣の黒いペンギンは一升瓶を抱えています。
〈ひろがる酒店〉で取り扱う酒を探していたときのことです。たまたまシミズさんの店で取り扱いがあるということで、真之助さんは電話をかけました。するとその電話で、シミズさんから、非常に熱量の高い酒の話を聞くことになったのです。その時間、なんと2時間(笑)!
そんなに情熱的に人から話をされたことがなかったという真之助さんは、会ってみたいと思い、実際にシミズさんの店に足を運びました。酒屋としてはそこまで大きいわけではなく、冷蔵庫の中にいつも満タンで商品が陳列されているわけでもない。ただおじさんが1人でお店に立って、酒を売っている酒屋さんだったといいます。
どのお酒にも熱量のこもったタグがついています。
「でも、シミズさんと話していると、なんか買っちゃうんですよ」と真之助さん。試飲しながら、お酒にまつわる情熱的な話を聞いていると、「この人から買いたい」と思ってしまう人、それがシミズさんだったのです。
そんなシミズさんの酒屋を経験した真之助さんは、試飲してから買えることや、実際に話を聞いて「この人から買いたい」と思ってもらえるスタイルに心惹かれました。開業時には相談をしたり、アドバイスをもらうなど、力になってもらったといいます。現在、当のシミズさんは酒屋を辞めてしまったそうですが、その意思は間違いなく真之助さんたちが引き継いでいることでしょう。
チャレンジングな真之助さんに、2024年の挑戦を後押ししてくれそうな、今飲むべきお酒を聞いてみました!
〈竹野酒造〉の「弥栄鶴 笑顔百薬 生原酒」(2,970円)。
メロンのような上品な味わいが特徴的な日本酒。新酒なので、フレッシュさと微かなガス感が心地よく喉を通過していきます。甘口の酒ではありますが、苦味もしっかり感じられるので、ベタベタとした甘さがなく、非常にバランスの取れたお酒になっています。アルコール13%台の軽やかさも魅力のひとつ。
なんとこちらの〈竹野酒造〉は、真之助さんとシミズさんが出会うきっかけになった酒蔵なのだとか! お酒によって“ひろがる”ご縁。〈ひろがる酒店〉でも、どんどんつながっていってほしいですね。
飲み比べでも楽しめました。お酒の購入を検討する際は、ぜひ一度飲んでみていただきたい!
2024年に何か挑戦しようとしている人に、ひとことお願いします! という筆者からの無茶振りに、真之助さんは真剣に答えてくれました。
「お酒の事業に限らずだとは思いますが、正直大変なので、やらない選択肢もありだと思います。でも、人生1回しかないので、本当にやりたいと思うのであれば、やってみた方がいいと思います」
同じく独立開業している筆者ですが、なんとも心に刺さるお言葉……。本当にやりたいことがあるのなら、「えいやっ!!」 と、今いる場所を飛び出してみるのもいいかもしれません。
悩んでいるのならぜひ〈ひろがる酒店〉へ。おすすめのお酒を紹介しながら、松下夫妻がやさしく話を聞いてくださるはずです。
松下夫妻。左は亜紀子さん、右は真之助さん。
最後に、今後の展望について伺いました。
現在はオープンしたばかりで、物珍しさにお客さんがたくさん来てくれている“アドバンテージ期間”だと考えているのだそう。店があることが当たり前になったあとでも、お客さんに飽きられないように色々な仕掛けをしていきたいと、真之助さんは語ります。例えば、取引先の人をお店に招きお客さんと交流できるイベントや、市内の飲食店とコラボしたイベントなどを検討しているのだとか。
真之助さんたちがそうであったように、酒を通じて人と人とが、人と地域とが繋がり、その輪が“ひろがる”ように。〈ひろがる酒店〉の挑戦はまだまだ続きます!