暮らしのなかに“街の誇り”を。〈カネイリミュージアムショップ〉で郷土の文化に触れてみる。【三日町】

八戸ポータルミュージアム〈はっち〉とともに、2021年2月11日に10周年を迎えた〈カネイリミュージアムショップ〉。アート・デザイン雑貨と並べられているのは伝統工芸品です。古くからあるものと新しいものを組み合わせることで、新しい価値観を発信するプラットフォーム、〈カネイリミュージアムショップ〉の魅力に迫ります。

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なつめ-natsume

1995年生まれ。青森県八戸市出身・在住の駆け出しライター/フォトグラファー。郷土愛たっぷりな3人組『海猫ふれんず』として、八戸圏域の魅力発信を中心に活動中。誰かが守り続けてきてくれた今ある地元を、今度は自分たちが守り、未来へ繋げることをテーマに日々成長していければと思います。

『海猫ふれんず』
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カラフルな八幡馬!? ここでしか見られない伝統工芸品の新たな姿。

八戸の玄関口となるように。そんな願いをこめてつくられた八戸ポータルミュージアム。市民には、〈はっち〉の愛称で親しまれています。2011年2月11日にオープンし、今年10周年を迎えた〈はっち〉は、八戸中心街のメインストリートに面した大きなガラス張りの建物。窓から光が差し込み、はっち広場に日だまりをつくる様子は、市民や観光客の心に温もりを与えてくれます。そんな〈はっち〉とともに10年の時を歩んできたお店がありました。

八幡馬が迎えてくれる入り口を抜け、左手にある〈カネイリミュージアムショップ〉です。同じく中心街の番町に位置する本屋・文房具屋の〈カネイリ〉が運営しています。

壁にはさまざまな色や模様の、手ぬぐいが飾られており、壁などの仕切りがないため足を踏み入れやすく、ついふらりと立ち寄りたくなるオープンな店内。

やはり最初に目に入るのは、はっちの玄関口でもお出迎えしてくれた八幡馬ではないでしょうか? 日本三駒のひとつである八幡馬は、八戸市を中心とする南部地方に古くからある郷土玩具として知られています。馬体には黒・赤・白を基調とした色が塗られ、千代紙で飾り、点星を描いた素朴なものや、うみねこや阿房宮など郷土の模様を取り入れたものがあります。

左から順に春夏秋冬を表現している“四季”の八幡馬。

しかしこちらでは、ほかでは見ることのできないカラフルな八幡馬の姿がありました。伝統工芸品と現代のデザイナーがコラボして生まれた、カネイリオリジナル“四季”をモチーフとした八幡馬です。可愛らしいデザインで思わず手に取ってみたくなりますよね。

南部裂織×カネイリ〈kofu〉のブックカバー。こちらは新しいシリーズのもの。

こちらは、青森県認定伝統工芸士の南部裂織作家、井上澄子さん×カネイリのコラボによって生まれたブランド〈kofu〉です。綿が貴重だった時代に、古布を裂き、また編み直すことで再び使えるようにしたという南部裂織。彩り豊かであたたかい作品は、人の手に取られ実際に使われることで本来の美しさを発揮します。〈kofu〉は2013年度のグッドデザイン賞を受賞しました。

“八戸ならでは”が詰まったえんぶりや三社大祭、アイスホッケーなどのオジナルデザインの手ぬぐい。

このように〈カネイリミュージアムショップ〉では、ここでしか見られないコラボやオリジナル商品、そのほかにもクリエイターへの別注品も多く取り扱っています。

南部地方の郷土食「南部せんべい」をモチーフにした別注品の雑貨。

今までよりももっと身近に。日常に溶け込んだ伝統工芸品。

商品のラインナップは青森をはじめ東北の持つ熟成された地域性や独自性を主軸にして集約されたもので、伝統工芸品、地域にまつわるお土産品や食べ物、デザイン雑貨や書籍など実にさまざま。同じ棚の一角に、古いものと新しいものが並べられているなんて、新鮮でワクワクしませんか?

そもそも伝統工芸品は普段目にすることもなければ、触ってみるなどとんでもない! もしかして、教科書や博物館で見たことあるかな? くらい遠い存在に感じている人もいるのではないでしょうか?

カラフルな南部鉄器。洋間にも馴染みそうなデザインです。

しかし〈カネイリミュージアムショップ〉ではデザイン雑貨のすぐそばに伝統工芸品が並べられ、なかにはコラボによって新しいデザインとなり、その見た目に惹かれて思わず手に取ってから、伝統工芸品だったと気づくなんてことも。伝統工芸品に対する敷居の高さを、多くの人に受け入れられやすいキャッチーなものと並べることで、敷居を低くし、伝統工芸品に触れる機会を提供しています。

 

“街の誇り”を確立するために八戸に生まれた〈カネイリミュージアムショップ〉。 

そんな〈カネイリミュージアムショップ〉が開店したきっかけは、〈はっち〉オープンの際に、その中に観光客や市民が利用できるミュージアムショップを開設したいという話が出たことでした。

地元八戸の玄関口として生まれる新たな施設のショップを運営をするなら、都会の企業などではなく自分たちが立ち上がらなければ。地元企業の〈金入〉は、一念発起しショップの運営をかけたコンペに参加。東北や青森・八戸にしかない魅力を集め、地元の人が郷土の魅力に触れることで、“街の誇り”を確立できる……そんな提案を打ち出し、見事ミュージアムショップをオープンすることとなったのです。

伝統工芸品は昔からある素晴らしいものですが、最近は立ち位置が変わり始め、“古臭いもの”というイメージを持たれることも多いといいます。

デザイン雑貨や新しいものと組み合わせるという新鮮な切り口で、伝統工芸品の持つ本来の美しさに、多くの人が触れてもらえるようご提案する役目をこの店舗が担っています」と話してくれたのは、店長の大久保一枝さんです。

地域に伝わる伝統的なものだと知らずとも、手に取ったとき、使ってみたときに、その“良さ”を実感してもらえれば大成功なんだとか。

 「知らないのにいいのかな? なんて気負う必要はありません。感性で選んで、使ってみて、楽しかったり嬉しかったりしたときに、その背景に興味を持ってもらえたら嬉しいです」(大久保さん)

 

有機的な接客で訪れた人と思い出の1ページを共有する。

商品のセレクトは展示会やマルシェなどでスタッフが実際に作品を見て、「これいいな」「可愛い!」「素敵!」といった感動を大事にし、その場でのコミュニケーションや出会いがきっかけになり、取り扱うこともあるそうです。

伝統工芸品については、技術を持っている人が限られているため、密に付き合っていけるよう努力しているんだとか。

店長の大久保さん。原動力は「楽しむ」こと。

観光客や地元客、どちらも多い店舗のため、品揃えだけでなくホスピタリティ的なおもてなしの気持ちも忘れずに。観光客の中には旅のスモールトークとしてスタッフに声をかけてくれる人もいるそう。 

「有機的な接客を常に心掛けています」

一つひとつにストーリーがある商品が多いため、お客さんと楽しい雰囲気で商品の背景を共有し、お店で過ごした時間を「ちょっと得したな」「いい時間だったな」という思い出の1ページにしてもらえれば幸いだといいます。

 

時間軸を超えて、同じ郷土を舞台に生まれた“もの”の魅力を発信する。

訪れた人に寄り添うサービスはこれだけではありません。購入してくれた人にはできるだけ長く使ってもらえるよう、メンテナンス可能なものはできる限り受け付けているとのこと。購入後のサポートもあれば、安心して普段使いもできそうですね。

最近はSNSの更新頻度を増やすことで、お客さんとの距離を縮めたり、おうちにいても伝統工芸品やお店を身近に感じてもらえるようにしているといいます。また、フェアの間隔を開けずに、以前よりも増やすことでいつ来たお客さんにも足を運んでよかったと新鮮な気持ちになってもらえるよう心掛けているそうです。

「すでに1年分ほどは目標を決めてフェアの準備を進めております。ぜひSNSをチェックし、足を運んでもらえれば。どうか楽しみにお待ちください」

長年洗練され続けた伝統工芸品と、クリエイターが製作する地域にまつわる雑貨。昔のものと現代の新しいもの。時間軸は違えど、郷土という共通点の中で生まれたさまざまな価値観を発信し、共有するプラットフォームのような〈カネイリミュージアムショップ〉では、今まで伝統工芸品に馴染みがなかった人でも、生活に取り入れやすいようなショップづくりを目指しています郷土の誇る“ものづくり”や郷土のもつ本来の魅力に触れ、日常に“街の誇り”を取り入れてみるのはいかがでしょうか。

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