喜ぶ顔が仕事の源。レトロ喫茶〈カヤマ〉で味わう裏メニュー「煮ぼうとう」。【根城】

根城に創業45年のレトロ喫茶があるのを知っていますか? 根城大橋の入り口部分にお店をかまえる〈カヤマ〉には、喫茶店でそうそう味わえない本格手作りメニューがたくさん。埼玉出身のフレンドリーなママとのやりとりにも注目です。

writer
松浦奈々-nana-matsuura

盛岡市在住。八戸市の浜育ち。広告代理店の営業経験を経て、2024年春からフリーのライター兼フォトグラファーに転身。
家族が実家を引き払い、岩手へ移住してきたことで今や生まれ故郷に帰る場所がなくなったため、月1回先輩の実家に居候させてもらいながら、はちまちの取材に挑む。レトロなものとフィルムカメラと、イカドンと八戸の空気が大好き。
Instagram

こんにちは。八戸出身、盛岡在住10年目の松浦です。八戸に帰ってくるたび新しいカフェが増えている印象がありますが、喫茶店はそれほど多くないような気がしています(おすすめがあったらぜひ教えてください......! )。

地域の方々に伺うと、昔はどこに行くか迷ってしまうほど喫茶店があったのだそう。その時代にタイムスリップできたなら……と思ってしまうほど大の喫茶店好きの私が、ひそかにリストアップしている八戸の喫茶店にインタビューしていきます。

八戸インターから八食センター方面へ向かう途中で渡る根城大橋。橋の入り口部分にある、印象的な手書き看板が〈カヤマ〉の目印。私が初めてカヤマにお邪魔したのは2〜3年前。そのときにとても心温まるサービスをしてくださったママを忘れられなくて、再訪してきました。

カヤマを45年間守り続けているのは、まもなく71歳をむかえる埼玉県深谷市出身の慶長映子(けいちょうえいこ)さん。結婚を機に21歳で八戸に移住しましたが、転居前は百貨店〈西武〉のレストランや、荒川区役所の社員食堂、洋菓子店の〈不二家〉で調理をしていました。

店内はこんな感じ。テーブル席が2つと、カウンター席、小上がりの席が2つあります。

喫茶店の金魚って、ゆらゆら泳いでいるからなのか時間をゆったりと感じさせてくれるから好き。

フードメニューは、スパゲッティ、うどん、ひっつみ、カレーやピラフ、ハンバーグやピザなど和洋中なんでも揃い、その数26種類! ファミレス並みの品揃えで、どれを頼んだらよいのか迷ってしまうほどのラインナップです。

 

煮ぼうとうってどこの郷土料理?

料理の基礎は〈西武〉で学び、洋菓子の知識は〈不二家〉で習得したと話す研究熱心な映子さん。ピザやうどんは、なんと生地から作るのだそう。映子さんにイチオシを聞くと、裏メニューの「煮ぼうとう」をおすすめされたので、今回は裏メニューの紹介からスタートするディープな展開に(笑)。

「煮ぼうとう」とは、映子さんの故郷である埼玉県深谷市の郷土料理。国産の小麦を練った平たい幅広の麺をその場で手延べしてから、機械でさらに延ばして製麺していきます。

喫茶店のカウンター越しに、麺が造られていく工程を見られるのはとてもレア。

具材に入れるためのねぎをわざわざ倉庫から取ってくる映子さん。料理に使う野菜は、お店横にある畑から採ったものか、友人たちからのおすそ分け。

季節の野菜やかつお出汁、しょうゆで煮込みます。味を整えたら......

完成! ホッとする優しい味で、麺はコシがあって、もちもちで美味しい!

県外の郷土料理を食べる機会は旅行先くらいなので、この展開に興奮しながら味わっていると......

「よかったらこんにゃく食べる? これも手作りなんだよ」

ご厚意に甘えて頂きました……!  弾力に脱帽。着色料も防腐剤も入れず自然由来の色味なのだそう。

「ママ、こんにゃくも作っちゃうんだ……」と感激していると

「こんにゃく芋って、見たことある? 」「な、ないです」

カチッ……

「……?!?!? 」

映子さんに懐中電灯で照らされる眩しそうなこんにゃく芋。見たことのないその原型と、このシチュエーション。私ってトレジャーハンターだっけ.....?

次いで、 手作りの一味に、

焼きプリンも自家製。プリンは準備の関係上、事前電話予約すれば食べられるとのこと。焼き立てをめがけてくる方もいるんだとか。次のお楽しみになりました。

次から次へと登場する、映子さんの手作り料理。私のリアクションに嬉しそうに笑う映子さんは、店内のディスプレイにも細かなこだわりが。

カエルが6匹で「迎える」。ゾウがいることで「迎えるぞ(う) 」という意味があるという。汚れないようにラップで保護するのも映子さん流。「ダジャレが好きなんですか! 」というと、ワハハとお茶目に笑っていました。なんておもてなし精神に溢れる空間なんだろう。

デザートとコーヒーの品揃えも魅力的なカヤマ。ドリンクメニューはコーヒーが10種類。お茶・紅茶類が9種類。ジュース・デザートドリンク類が10種類に、デザートは7種類とこれまた豊富。たっぷりと体が温まったあとは、甘いもので締めたい! ということで、引き続き映子さんのおすすめを注文。

ヨーグルトパフェ600円。たっぷりヨーグルトが入っていて、バニラアイスとブルーベリーとの相性抜群。コーンフレークが入っていない、底までアイスのパフェで嬉しかったです。

青大将450円。加山雄三の映画から貰って名付けたブレンドコーヒー。(お店の名前も加山雄三から)香り高く、ほどよい苦味で飲みやすい。

コーヒーは今や珍しいサイフォン式。青森市に暮らしていたときによく通っていた喫茶店のマスターから譲り受けて早30年。「ドリップもいいけど、サイフォンのほうが味が均一に仕上がるから、ずっとサイフォンで淹れてるんだよ」

 

映子さんの恩送り

野菜や小麦粉、お米などいただきものが多く、なんでも自分で作ってしまう映子さん。お礼にりんごを送ったり、ご飯やコーヒーを振る舞ったりするのだといいます。

「いいからいいからってさ、もっと飲んでいきなさい、食べていきなさいってさ。私はそういう人間だから。それは、私が2歳の頃に父親が亡くなって生活が苦しかったときに、近所の人にそうしてたくさん助けてもらったからなんだ。だから今、みんなお返ししてる。あとね、私は料理も大好きだけど、人が喜ぶ姿を見ることがなによりも大好きなの」

物価が上昇しても、消費税が上がっても、提供メニューの金額を上げてこなかったカヤマ。娘さんが今年の春に料金改定をしたことをきっかけに新料金でスタートするも、たくさんあるメニューの料金を覚えるのが大変だと困り顔の映子さん。お客さんが来るたびに「ちょっとお待ちくださいね」といい、金額を確認するというエピソードからも、映子さんの真ん中にあるのが「利他の心」ということがわかります。

取材中、どの場面を切り取っても笑顔だった映子さん。製麺しているときも、コーヒーを淹れているときも、常に楽しそうでした。その姿に多くの人が引き寄せられてしまうのだと強く思うのでした。

「娘と同居しているし、お店をやめたっていいんだけどね。『ママおいしい』って言われると、やめられなくてね。喜ぶ顔がやっぱり嬉しい」とピースサイン。

幅広い年代のお客さんが訪れるカヤマ。看板にある「手造りの店」の手は、映子さんの原寸大。うどんの粉がついた手のひらを「パッ」といって私にかざしてくれました。手のサイズを比べたら、映子さんの手は私よりもひと回り大きかったです。全ての言動、瞬間が愛に溢れていている時間でした。

公開日

まちのお店を知る

最近見たページ