八戸唯一のワイン専門店〈ヴァンタス(VIN+)〉で、あなたの暮らしにワインの喜びをプラス。【長横町】

「ワイン」のフランス語表記「VIN(ヴァン)」に「+」と書いて「ヴァンタス」。「あなたの暮らしにワインを足してみませんか?」なんて、遊び心が利いています。2016年に内閣府からワイン特区の認定を受けた八戸市。“ワインのまち”を目指すこの街で唯一のワイン専門店が、長横町にあります。

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馬場美穂子-mihoko-baba
青森県八戸市出身、在住。タウン情報誌編集を経て2007年、ブランドショップ販売員、環境教育講師などをしながら執筆活動開始。2011年、八戸ポータルミュージアム はっち開館企画『八戸レビュウ』参加をきっかけにフリーライターを名乗る。おもに青森県~岩手県北の人・企業・歴史を取材し各種媒体に執筆するほか、地域のアートプロジェクトに参加するなどフリーダムに活動中。三姉妹の末っ子にして三姉妹の母、重度のおばあちゃん子。

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お風呂上りにふらっと立ち寄れる“まちのワイン屋さん”。

長横町のメインストリートとゆりの木通りの交差点そば。飲食店やライブハウスの看板が光を放つビルの1階に〈ヴァンタス(VIN+)〉はありました。

大人の雰囲気漂う外観にひるむことなく扉を押せば、待っているのは在庫も含めて200〜300種類、1,000本以上のワイン。八戸ワインをはじめとした国産ワインのほか、世界中からセレクトしたワインが並びます。そのお値段、850円から10万円超まで。

スーパーやコンビニでも旨安ワインが買える幸せな世の中だけれど、こちらのラインナップは、他ではちょっと見かけないものばかり。さすがは市内で唯一のワイン専門店! さあ、同店を運営するハチペイ商会代表・工藤大地さん、ワインへの熱い思いを思う存分語ってください! 

▲ハチペイ商会代表の工藤大地さん(右)と石鉢元さん(左)。

……と思いきや、「この店をやることになったのは、たまたまというか……」。意外とテンションが低い。えっちょっと、マジですか?

ハチペイ商会は、工藤さんと仲間たちが立ち上げた会社です。八戸青年会議所で出会ったというメンバーは公認会計士、建設業、元・ソムリエで現・農家兼カフェ経営…とそれぞれに本業を持ちつつ、「八戸圏域をもっと楽しみたい!」を合言葉にウェブメディア運営などを行ってきました。

そして工藤さんの本業は塗装工事やリノベーション。前オーナーの依頼でヴァンタスの施工を手がけたほか、ビル自体の管理・運用もしています。前オーナーから閉店の意思を聞き、ハチペイ商会として経営を引き継ぐことを決めたのだとか。

財務・経理は公認会計士、商品のセレクトは元ソムリエが担当。各々の得意分野を生かして運営を始めたのは、2020年春のことです。

「『八戸ワイン産業創出プロジェクト』が始まって、市内に2つの醸造所もできて。それは良いことだけど、やっぱり飲む人が増えないとワイン文化は根づかない。作っただけじゃ売れていかなくて、提供する場所がないと。だからこの場所をなくしたくなかったんです。

ここは、まちなかから地元のみんなにおいしいワインを提案していく場所。昔からあった“まちの酒屋さん”のワインバージョンみたいな感じで、気軽に来てもらいたいなと。実際、お風呂あがりの格好でふらっと来て買っていかれるお客様とかね、いますよ」

 

2016年、ワイン特区に認定。八戸ワインの現在地。

▲八戸市南郷地区の風景。

さて、ここで八戸のワイン事情をあらためてご紹介しましょう。

八戸市の南側に位置する南郷地区では需要の低下から、主力だった葉タバコに代わる作物を模索していました。
そこで白羽の矢が立ったのが、地域の気候・土壌に適したワイン用ブドウです。ワインを販売できるだけでなく観光など産業として裾野が広いことから、地域振興も狙い市が全面的にバックアップ。2014年度から『八戸ワイン産業創出プロジェクト』がスタートし、2016年には、内閣府から八戸市がワイン特区の認定を受けました。

▲お店には八戸ワインが充実。ステンレスタンクで仕込む〈はちのへワイナリー〉のワインは初心者にも親しみやすいおいしさ。

▲イタリアンのシェフが作る〈澤内醸造〉のワインは、個性的な味わいが魅力。

2017年には市内柏崎地区に〈澤内醸造〉が、19年には南郷地区に〈はちのへワイナリー〉が相次いで開業。北東北有数の飲食店街を抱える八戸では、ワインバーやレストランも多く、畑と醸造所の充実によって、ブドウ生産からワインの醸造、販売まで一貫して行える体制が整ってきました。

 

身近な人と、ゆったりした時間を分かち合う。

▲中辛口の白ワイン「カンフ-・ガ-ル・リ-スリング」(2,640円)は工藤さんお気に入りの1本。豊かな香りときりりとした酸味が和食や中華にもよく合う。

 地域愛を出発点に「たまたま」ワインショップ運営を始めた工藤さんですが、今では晩酌は専らワイン。商品チェックも兼ねて、ほぼ毎晩飲んでいるそうです。

しかし数あるお酒の中でも、ワインはどこかハードルが高いイメージ(そもそもラベルが読めないことも多い)。とっつきにくいと感じている初心者もきっといると思うのです。そこで工藤さん的なワインの楽しみ方を聞いてみると。

「ワインは食事の一部じゃないですかね。種類も味わいも本当にさまざまなので、和洋中なんでもいける。僕も煮付けや刺身や冷ややっこと合わせて飲んでいます」とのお答え。

「ワインってある意味、コミュニケーションツールだと思うんですよ。大手企業で出世するにはワインの知識が必須なんて話もあるくらい、世界的な記号になっているお酒ってたぶん他にはない。そういう世界中の人と語り合えるお酒でもあるけど、身近な人と分かち合うのにもちょうどいい。たとえば1本750mlを夫婦で分け合っていると、ゆっくり時間が流れる気がします。

『テロワール』というフランス語がよく聞かれますけど、これはその土地の気候とか土壌とか、ブドウが穫れる場所の個性みたいな意味合い。ワインは本来、その土地で作ってその土地で消費される、すごく土着的なものなんじゃないかなと思っていて。だからワインを飲むということには、その土地を味わう楽しさも含まれているんですよね」

 

耕作放棄地を再生。地域の課題に応える、というワインの可能性。

▲「NANBU TIMES」(1,980円)。南部町で3代にわたって作り続けられてきた昔ながらの品種・キャンベルアーリーを100%使用。

ハチペイ商会では2021年6月、自社初のブランドワイン「NANBU TIMES」をリリース。八戸市のお隣、南部町で穫れたキャンベルアーリー100%の赤ワインです。南部町の自然を写し取ったような、山と川がデザインされたラベルがいい味を醸し出してます。

明るいルビー色に甘酸っぱい香り。口に含むと、ほどよい酸味とベリーの果実味が広がり、後味はすっきり。キリッと冷やして飲みたいフレッシュな1本。工藤さんのお気に入りは中華料理とのコンビです。

「鶏肉の油と相性がよくて、焼き鳥とかコクのあるタレと合わせてもおいしい」

そしてこのワイン、おいしいだけではありません。
「『NANBU TIMES』は、南部町の耕作放棄地を再生して収穫したブドウで作りました。ブドウは野菜と違って永年作物なので、耕作しなくなっても樹が残るんですよ。それを僕たちで草取りしたり剪定したりして。醸造は八戸ワイナリーに依頼しました」

山々に囲まれた南部町は良質なさくらんぼやりんごの産地です。“フルーツの郷”として知られますが、生産者の高齢化と後継者不足が課題。その課題に対してハチペイ商会が起こしたアクションが、ワインとして結実しました。

グラスの中に物語がある……なんてあまりにもベタですが、一杯に込められた思いを知ることでより味わい深く飲めるのも、ワインの魅力かもしれません。
また今後は、南部町産のりんごを使ったシードル作りにも挑戦したいとか。

 

一人のときも、誰かと飲みたいときも。スタッフが強い味方。

▲ワイン棚の奥にはカウンター席。買ったワインをそのまま抜栓することもできます。

〈ヴァンタス〉にはカウンター席があり、軽食をつまみながらワインやワインカクテルを飲むこともできます。しかもおつまみのラタトゥイユなどは、店内のキッチンで手作りしているとか。

これなら、一人で買うにはちょっとお高いワインを友達と割り勘で買って、そのままお店で飲んじゃう、なんてこともできる。飲み足りない日の二次会や、待ち合わせ前の0.5次会にも使えそうです。

豊富な品揃えはいいけど迷っちゃうよ、というときは、お店のスタッフに声をかけてみましょう。目的や集まる人数、今晩のメニューなどを伝えると、シチュエーションに合った1本を選んでくれますよ。

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