花の命の過程を見つめ、個性と向き合う〈フラワーショップ花誠〉で、花のある生活を。【朔日町】

中心街へ訪れた人々が利用する朔日町バス停。その横には、可愛らしい花々が咲いている小さな花壇が。いきいきとした花に癒やされていると、すぐそばに〈花誠〉と掲げられた看板があることに気づきます。店の前に並べられたプランターに水をあげているのは、清潔感のあるシャツと黒いエプロンを纏った生花店のスタッフ。技術職という誇りを胸に、私たちと同じ生命をもつ植物と向き合ってきた〈フラワーショップ花誠〉についてご紹介していきます。

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なつめ-natsume

1995年生まれ。青森県八戸市出身・在住の駆け出しライター/フォトグラファー。郷土愛たっぷりな3人組『海猫ふれんず』として、八戸圏域の魅力発信を中心に活動中。誰かが守り続けてきてくれた今ある地元を、今度は自分たちが守り、未来へ繋げることをテーマに日々成長していければと思います。

『海猫ふれんず』
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花と人々とのコミュニケーション。誠実を極める技術職の仕事。

店内に足を踏み入れると、目に入るのは木づくりのカウンター。その周りは入り口から奥の奥まで、伸び伸びとそれぞれの花を咲かせる植物が。生花、葉物、枝物、店内で製作したドライフラワー、特殊な加工により生花の風合いを長期間にわたって保つプリザーブドフラワーなど……。ひとえに植物といっても、その種類はさまざまです。

取り扱う植物の種類は数百にものぼり、季節によってラインナップは常に変化。これらは、自宅用の一輪挿しから花束、ブーケ、アレンジメント、観葉植物などたくさんの方法で楽しむことができます。また冠婚葬祭のほか、会社や施設などへの花の配達や、それらを回収しての植え替え作業。ホテルなどで、インテリアとしての花のコーディネートやディスプレイのアドバイスといったさまざまなサービスを展開しています。

「花屋は技術職です」

そう話してくれたのは、フラワーデザイナーの資格を持つ店長の山田豊和(やまだ とよかず)さん。生花でもその植物によって管理の仕方が変わってきます。たとえば切り花をいきいきと保つために、水を吸い上げる部分である、茎の切り口を整える“水揚げ”。その方法は、水中で切る“水切り”をはじめ、お湯を使ったり、バーナーで焼き切ったりと、茎の構造によって違うんだとか。

植物の生態や形態、それぞれの特徴を掴み、適切な管理をすることで、いきいきとした姿を人々に届ける。それが職人の腕の見せどころ。〈花誠〉では“誠実”を合言葉に、心をこめた接客はもちろん、スタッフ一人ひとりの知識や技術を高めていくことを常に心掛けています。スタッフには長年勤めている人も多く、「常連さんの好みを把握している。技術的にも信頼できるし、助けられている」とベテランスタッフの頼もしさを山田さんは語ってくれました。

筆者の好みに合わせて山田さんにアレンジメントしてもらった花々。小さなランタンのようなオレンジのサンダーソニアに、白い小ぶりの花マトリカリアとくるんと可愛らしい利休草を合わせ、全体的に柔らかい印象に。

花をアレンジメントするときは、お客さんとのコミュニケーションも大事にしています。たとえば、華やかな百合は多くの人に好まれますが、なかには強すぎる匂いが苦手だという人も。そんなときには、百合のなかでも匂いが強くない品種を選びます。

またその時代によって流行の花にも変化が。近年はSNSの写真を見せて、こんな花が欲しいと希望するお客さんが増えました。お客さんとのコミュニケーションから、新たな情報をもらうことも多いといいます。

生花店の仕事で一番大変なことは、やはり植物の管理です。植物の元気がないときは、水を吸えないのか? 土が悪いのか? 日当たりはどうだろうか? 試行錯誤で原因を探します。長く植物に携わっていても、海外からの輸入品では、未だに初めて見たという植物との出合いも。どう管理し、どう活かせばいいのか、再び試行錯誤していく必要がありますが、それよりも新たな植物との出合いにワクワクが止まらなくなるといいます。

 

「自分で育ててみたい」試行錯誤の日々が今はお客さんへのアドバイスに。

青森県産のトルコキキョウ。

〈フラワーショップ花誠〉は昭和52(1977)年に寺横町でオープン。昭和54年に現在の朔日町に移転し、そのほか中心街の表通りを花で賑わせる〈花誠三日町店〉も展開しました。

創業者は山田さんのお父さん。植物好きが高じて、公務員をやめて開業しました。植物について学ぶため、修行に出た東京・池袋の生花店の名前が〈花誠〉だったことから、のれん分けされたその名とともに八戸へと帰り、今日まで40年以上、八戸の〈花誠〉として人々の生活を花で彩り続けています。

 〈フラワーショップ花誠 三日町店〉。

山田さんは小学校高学年のころからお店の仕事をお手伝い。朝になると起こされて、花屋の手伝いをしてから学校へ登校しました。

短大卒業後は修行のために埼玉県の生花店へ。実務を重ねて生花店の極意を学んでいきます。そんな山田さんが21歳のころ、自分のために初めて植物を育てたのは、観葉植物として人気のあるパキラでした。購入時に水のあげ方や管理の仕方をきちんと確認したといいますが、一人暮らしで部屋をあけてしまうことも多く、すぐに枯らしてしまったんだとか。

 

お客さんから預かった植物たち。枯れかけてしまった植物が元気を取り戻せるよう試行錯誤しています。

こちらは新芽が出てきました! いきいきとした姿でお客さんのもとに戻れますように。

そんな修行時代、弟から生花店のオープンを目指していることを告げられたそう。弟の英輔(えいすけ)さんは2012年に東京・下北沢で生花店〈milcah(ミルカ)〉をオープンし、美容師やデザイナー、編集者など、美的感覚に優れた顧客のつくブランドとして成長。2018年に八戸にUターン、喫茶店だった建物を改装して、今は中心街から少し離れた長者で〈milcah〉ブランドを展開しています。

スタイリッシュで洗練された店内に足を踏み入れると、〈milcah〉という世界に私たちが迷い込んでしまったような錯覚を覚えます。

 

経験してほしい。生きている花と、せいかつするということ。

花とのかかわり方を学び続けてきた山田さんが、必ず心掛けていることがあります。

“花はさすものじゃない。生けるものだ”

この言葉は山田さんが埼玉の修行先で教えてもらったもの。商品として取り扱う花は、自分たちと同じ“生き物”であるという自覚が、花と真摯に向き合うために必要なのだと話します。

店長の山田豊和さん。好きな花はひまわり。

「切り花は、私たちが切ってしまう前まで根がついていました。水がなければ生きられないのは人間も花も同じこと。ただ水換えをするだけではなく花の特徴を捉えて、水を上手に吸えるように手伝うことで、お客さんのもとに美しい姿で届けることができる」

死に物狂いでただただ勉強していた過去には、アレンジメントの花の向きや合わせ方を、「そうじゃないだろ」と先輩に指摘されることがあったといいます。

それまでは何が悪かったのかわからないこともありましたが、“花も生きている”、それぞれに“個性がある”、そう意識しはじめると花との向き合い方が変わりました。注文されたアレンジメントが誰の手に渡るのか、どこに飾られるのか、ほかにどんな花を合わせればいいのだろうか。それはまるで人々が、お出掛け前の装いを考えるのと同じよう。花のアレンジメントはどこかアパレルのようだと感じることもあるそうです。

「同じ品種で、同じ色の花でも、濃淡や色合いが微妙に違っている。自己満足なのかもしれませんが、花の個性をうまく捉え、良いアレンジメントができたときは、花の表情がいきいきとしているように見えるんです」

生花だからこそ得られるものがあると教えてくれた山田さん。たとえば、その色や艶。そしてつぼみが花を咲かせ、枯れていくまでの命の“過程”を見守り、一緒に過ごすこと。命の“過程”と生花店は常に向き合います。

花屋さんに訪れ、お気に入りの花を見つけて、一緒に生活してみる。生活の一部として捉えることで、同じ生き物として植物を身近な存在に感じるような、そんな経験をしてみてほしいと話してくれました。

お店の花のなかには、どうしても店に残ってしまう花も。そういった花の一部は店の近くにある、朔日町のバス停横にスペースを借りて花壇を作り、街へ訪れる人々に花を楽しんでもらう試みも行っているそうです。それも多くの人々に花の美しさや、花のある生活の楽しみを知ってほしい。そんな思いからはじまりました。

 

一瞬の美しさだけではない。“過程”を慈しむということ。

“過程”があるのは、人々も同じこと。山田さんは組合の協力も受けながら、3〜4年前から保育園などで「花育(はないく)」を目的としたフラワーアレンジメントのワークショップを開催。花育とは、花のアレンジメントに挑戦してもらうことで、これから大人になっていく子どもたちに命の大切さや花と触れ合う楽しさを感じてもらう取り組み。

約束はひとつだけ。大人たちはワークショップ中は過度なアドバイスをせず根気強く見守り、子どもたちの感性で花と触れあってもらうこと。そこでは、子どもたちが伸び伸びと作品を作り、花との触れ合いを楽しむ様子が。同じ花を使っていても、大胆な作品もあれば、繊細で可愛らしい作品も。保護者の中には子どもの意外な一面を見ることができたと驚き、喜んでくれた人も多かったそう。

「花を楽しむことに年齢や性別は関係ありません。どんな人も花を目にすればきっと、気分が良くなります。そう、みなさんに気づいてもらえるように、〈花誠〉は誰もが気軽に入って花と触れ合うきっかけをつくれるような店にしていきたい」

 

生花店の店員から経営者へと立場が変わってからはとくに、地域の人々との交流の重要さも感じるようになりました。周りの人々はみな人生の先輩方。彼らからのアドバイスで気づくことも多く、また店内のスタッフでまとまらなかった意見も、外部からの客観的な意見をもらうことで新しい視点に気づくきっかけをもらったこともあるといいます。同じ街で生きる仲間、同じ生花店として頑張る仲間、持ちつ持たれつみんなで協力して、街に活気を、そして生花店自体の活性化を目指したいと山田さんは話します。

「花が街を彩り、華やかで賑わいのある街をつくっていく。これから大きくなっていく子どもたちのためにも、10年先を見据えて今頑張ることが私たちの役割なんじゃないかなって、思うようになりました」

 “花育”によって花と触れ合う楽しみを知った子どもたちが伸び伸びと成長し、いつかこの街を支える大人になっていく。今私たちが過ごしている日々も、ゆっくりと歴史を歩み続けている街の“過程”の一部。〈フラワーショップ花誠〉は地域に根付いた生花店として、これからも花の命と向き合い続けるとともに、人々や街が伸び伸びと生きる“過程”づくりに取り組んでいきます。

 

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